雨の日に、高校生になった「ご注文はうさぎですか?」のチノ、マヤ、メグ、そしてフユが喫茶店に集まって談笑する、そんな一場面を…ショートストーリーとファンアートで描きました。
しっとりとした雰囲気の中で繰り広げられる、彼女たちの可愛らしい時間をお楽しみください。




雨の日のコーヒー店でのチノちゃんたちの小話
ごちうさ 雨音とジャズの香り
カラン、とカップを置く音が、ジャズの低いベースラインに溶け込む。
ラビットハウスの窓の外は、灰色の空から降り続ける雨粒で、にじんだように揺れていた。カウンターには磨かれたカップが整然と並び、奥で淹れたてのコーヒーの香りが漂っている。湿り気を帯びた空気の中で、その香りは一層濃く感じられた。
チノは窓辺に座り、じっと外を見つめながら小さく息をついた。 「……外の雨、なかなか止みませんね。でも、この音は落ち着きます。」
その隣でフユはカップを両手で包み込むように持ち、蒸気に頬を少し赤く染める。 「うん、カップを持つ手も温まるし、こういう雨は好きかも。」
マヤは背もたれに寄りかかり、わざとらしく目を細めてジャズに身を任せる。 「わ〜、この雨の音にジャズが合う〜!なんか大人っぽい気分!」
するとメグがくすっと笑って、カップの縁に指を添えた。 「ふふっ、マヤちゃんが落ち着いてるとちょっと不思議だね~」
チノはジト目のまま、冷静に突っ込む。 「……確かに。まあ、こういう静かな時間もたまにはいいんじゃないですか。」
「じゃあこのまま、もう一杯頼んじゃおっかな〜♪」 マヤは手を挙げて言うが、その声もどこかゆったりしている。フユも頷いて、静かな笑みを浮かべた。 「いいね、雨が上がるまでゆっくりしていこうよ。」#top
窓辺の雨粒レース
窓ガラスに滴る水滴を目で追っていると、店の中も次第に雨のリズムに溶け込んでいくようだった。普段は元気いっぱいのマヤも、はしゃぐメグも、今日はどこか大人びて見える。
——だが。 沈黙が長く続くと、逆にそわそわしてくるのがこのメンバーだ。
メグが口を開いた。 「……あのね、雨ってずっと見てると、いろんな形に見えてこない?」 「いろんな形?」とチノ。 「うん!ほら、ガラスに垂れるしずくが、うさぎの耳に見えたり、誰かの横顔に見えたり……」
フユはふっと微笑み、同じように窓を見つめた。 「……確かに。私はさっきから、流れていく雨粒が競争してるみたいに見えてたよ。どっちが早く下まで行けるかなって。」 「わかる〜!じゃあさ、次に流れる雨粒で競争しよ!」
マヤが身を乗り出して指差す。メグも目を輝かせて「やるやる!」と賛同する。 チノは小さくため息をつきつつも、結局は視線を窓に向けていた。 「……子どもっぽいですけど、まあ、暇つぶしにはなりますね。」
「よーい、どん!」 マヤの掛け声で、三粒の雨滴が窓を滑り落ちていく。 「いけーっ、左のがんばれ!」 「いやいや真ん中が速いって!」 「下から新しい雨粒が合流してきた!これで加速するかも!」
店内は一気に騒しくなった。ジャズのムードは完全に吹き飛び、即席の雨粒競争実況中継に。 「ちょっと静かにしてください、お客様が……」とチノが注意しかけたそのとき、奥の席の常連のおじさんが笑いながら言った。 「はは、いいぞ若いの。俺も右の雨粒に賭けた!」
完全に巻き込まれてしまった。#top
虹よりも鮮やかな笑い声
その後も雨粒レースは延々と続き、ついにはメグがメモ帳にトーナメント表まで描き始める始末。 「次は“スーパー豪雨リーグ”ね!」 「おー!じゃあ優勝した雨粒にはコーヒー一杯無料ってことで!」 「誰が飲むんですかそれ……」とチノは呆れるが、口元は少し緩んでいた。
やがてレースが白熱するにつれ、フユも珍しく声を張り上げる。 「右の雨粒、最後のひと押し!がんばれぇ!」 「フユが一番熱くなってる!」 「そ、そんなこと……ない!」
耳まで赤くなったフユを見て、みんなで笑い合った。 ふと気づけば、雨は小降りになり、窓の外の空が少しずつ明るみを帯び始めていた。 「……あ、雨、止みかけてるね」メグが指差す。 「じゃあ、決勝戦が終わったら外に出ようか!」とマヤ。 「まだやるんですか……」チノは半眼で返す。
けれど、雨粒が最後にツツーッとゴールまで滑り落ちた瞬間、全員が拍手をした。 「やったー!優勝は真ん中のしずくだー!」 「決勝にふさわしい戦いだったな……!」
そして、しんとした余韻のあと、マヤがぽつりと呟いた。 「……ねえ、このトーナメント表って、なんだか焼きそばのメニュー表に似てない?」 「えっ、どこが!?」とメグが笑いながら突っ込む。 フユは首をかしげ、「でも見てたら、ほんとにお腹空いてきちゃったかも……」
チノは額を押さえてジト目を深める。 「……結局最後は食べ物の話になるんですね。せっかくのジャズの雰囲気が台無しです。」
外の雨は止み、虹がうっすらと架かっていた。 だがラビットハウスの店内では、虹よりも鮮やかな笑い声が響き渡っていた。#top
他にもイラストは、ギャラリーページでも高画質でご覧いただけます。