『リコリス・リコイル』の登場人物、千束の誕生日を祝う一幕を題材にしたオリジナルSSです。
ちょっとお茶目でユーモアに溢れる雰囲気から始まり、クルミの皮肉、たきなの真面目さ、
そして真島のねじれた祝福が交錯する物語をどうぞ。
リンク:リコリス・リコイル公式



千束の誕生日らしいリコリコの温度
朝の光が柔らかく差し込む店内に、笑い声が弾けた。
今日は錦木千束の誕生日。
「たきな~! クラッカーのタイミング、遅いよ!
せっかく“おめでとう千束!”って言った瞬間だったのに!」
千束は頬を膨ませながらも、どこか楽しげだ。
「時間を計ったのですが……千束がいつもより早口だったせいで、ズレました」
真面目に答える井ノ上たきな。
相変わらずのぶっきらぼうさに、千束は笑って肩を揺らす。
「えへへ、正論すぎる~! でも誕生日はノリと勢い大事でしょ?」
「……大事というより、適当ですね」
「ははっ、やれやれ。誕生日でここまで噛み合わないの、千束とたきなくらいだぞ。まぁ仲がいいからか。
ただその言い争いでケーキが硬くなってきてるぞ!」
カウンターの奥から、軽口を叩くのはクルミだ。
小さな体でソファに寝転びながら、にやにやと眺めている。
「ありがとね~! でもさ、もうちょい盛り上げようよ!」
千束が両手を広げると、再び笑い声が重なった。
小さな店に響くその明るさは、まさに千束の誕生日らしい温度だった。#top
SNS通知から始まったお祝いのゲーム
しかし、和やかな時間は唐突に破られる。
テーブルに置かれたタブレットが震え、画面に通知が走った。
『――ハッピーバースデー千束。お祝いにゲームを用意した。クリアできなければ街が少し面白くなる』
それは、真島のメッセージだった。
「……おっと? なにこれ。“ハッピーバースデー千束。お祝いにゲームを用意した”って、物騒すぎない?」 千束が冗談めかして読み上げると、空気が一気に緊迫する。
「千束、軽く流さないでください。これは真島の犯罪予告です」
たきなの目は鋭く、声には緊張が滲む。
「いやぁ~、誕生日プレゼントが爆弾予告なんて、真島センスあるじゃん?」
「ありません」
「ううむ、さすがだね。真島ってホント子供っぽいことするな。
手間をかけて気になる女の子にちょっかいを出すような小学生みたいだぞ」
クルミが皮肉を飛ばすが、その表情は笑っていない。
背筋に冷たい風が走るような嫌な予感が、全員を包んでいた。#top
解除パスワードは“2025/09/23chisato”
「はい解析終了。パスワードは“2025/09/23chisato”。安直すぎで笑えるね」
クルミが指を軽快に動かしながら告げる。
「わぁ~! わたしの誕生日覚えててくれたんだ~って……いや、やっぱ嬉しくない!」
千束は苦笑しながらも拳を握る。
「行きましょう。現場は倉庫街です。遊びのような誘いですが、非常に危険です」
たきなが冷静に立ち上がる。
「仕方ないなぁ、誕生日プレゼントの受け取りに行きますか!」
千束は明るく振る舞おうとするが、その眼差しは真剣だった。
「気をつけろよ。どうせロクなもんじゃないからな」
クルミが画面越しに念を押す。
二人は走り出した。街の喧騒の中、緊迫感は次第に強まり、心臓の鼓動と同じリズムで靴音が響く。#top
悪趣味なバースデープレゼント
「たきな、私がまず行く。」
千束とたきなは倉庫街に到着しその一角にある、無機質な鉄扉を押し開けた。
中には時限爆弾のような、電子錠のジュラルミンケースがおいてあった。
「あれか、ちょっと近づいて解除キーを入力するね」
電子錠に千束はパスワード”2025/09/23chisato”を入力した。
千束は中身を確認する。
視界に飛び込んだのは、整然と並べられたおもちゃの銃だった。
一枚の紙きれも入っており、そこには赤い字でこう書かれていた。
『――ハッピーバースデー千束 by真島』
「……え、なにこれ。おもちゃの銃とメッセージ? 子供のお遊びじゃない。。」
千束が肩をすくめる。
肩透かしを食ったように緊張の糸をほどく。
「人騒がせにもほどがあります。こんなことのために私たちを誘導したなんて、腹立たしい」
たきなは唇を固く結ぶ。
「はぁ……ほんと嫌な奴に好かれちゃったなぁ」
せっかくの誕生日なのに色々と台無しだ。
千束の吐息に、空気が再び重たくなった。#top
これがいつもの誕生日
戻ってきた二人を出迎えたクルミは、腕を組んで待っていた。
「おかえり。で、誕生日プレゼントの感想は?」
「最悪だよ! おもちゃの銃とか、笑えないってば!」
千束がむくれると、たきなが続ける。
「無駄に走らされました。次は絶対に許しません」
「でもさ、ここまで祝ってくれるなんて……千束は真島に“愛されてる”な」
クルミの声はどこまでも皮肉めいていた。
「や、やめてよ! そんなの絶対いらないから!」
千束は慌てて手を振り、頭を抱える。
「……もうやだ~! わたしの誕生日、どうして毎回こうなるの!?」
そう叫んだ千束の姿に、場の空気は一転。
緊張と苛立ちの残滓をかき消すように、笑い声が弾けた。
結局、真島に振り回されながらも、この日が“千束らしい誕生日”として心に刻まれたのだった。#top
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