【リコリコSS】冬の経費削減大作戦!たきなの3つのオリジナルスイーツ誕生秘話

『リコリス・リコイル』の登場人物、たきなが経費削減をすることを題材にしたオリジナルSSです。
奇想天外な経費削減案にはたしてリコリコの収益は改善するのか?
たきな、千束、クルミ、ミズキの小話をどうぞ。

リンク:リコリス・リコイル公式


1幕:節約は正義ですから

夜の港倉庫は、潮の匂いと火薬の匂いが混じり合っていた。

「右お願いっ!」

コンテナの陰から、錦木千束が跳ねるような声で指示を飛ばす。
それに応え、影のように滑り込んだ井ノ上たきなが、冷静にターゲットを無力化していく。

「了解、制圧します」

パシュ、パシュ、と乾いたゴム弾の発射音が響き、ターゲットたちの手から次々と銃が弾け飛んだ。わずか五分での完全終結だった。

「はい終了~! 今日もスムーズ!」
千束はその場でくるりと一回転し、勝利のポーズを決める。
対照的に、たきなはホルスターに愛銃をしまいながら、淡々と言った。
「……あなたの宙返りは、作戦遂行上、必要ありません」
「えー? 心の準備体操だよ! ほら、気合入るじゃん!」
「非効率的です」

たきなは手元の端末を操作し、後始末(クリーナー)の呼び出しを完了させる。
「後始末をお願いします。……さ、これで」
「よし、帰ってあったか~いココア飲も~!」
千束が両手を上げて喜ぶのを、たきなは冷めた目で見つめた。
「報告書を、先に」
「……うぅ。急に寒さが心に沁みてきた~」
千束は、凍えるふりをして大げさに肩をすくめた。

喫茶リコリコのドアを開けると、暖かい空気より先に、ミズキの不機嫌なオーラが二人を迎えた。
「はい、これ」
カウンターに陣取ったミズキが、請求書の束をテーブルに叩きつける。
「クリーナー費27万、非殺傷弾の弾薬費12万、そして……“その他”」
「その他ってなにさ!?」
千束が慌てて請求書を覗き込むと、ミズキはジト目で千束を睨んだ。

「雑費。あんたの“心の準備体操”でへこませたコンテナの修繕費よ」
「うわぁぁぁん! 私のせい!?」
「もう予算ギリギリなんだから! このままじゃ、店の暖房止めるわよ!」
ミズキの最後通告に、千束は本気で青ざめた。
「いやあああああ! 命の危機!」

ソファの上では、クルミが小さな体でタブレットを睨んでいる。その表情は無だが、指先だけが猛烈な速度で動いていた。
「……仕入れ単価、去年の1.7倍か。物価高騰、えげつないな」
「ねぇクルミちゃん、天才ハッカーパワーで寒さ対策してよ~」
千束が泣きつくと、クルミは画面から目を離さずに答えた。
「通知がうるさいぞ。DAへの経費催促フィルタ、調整しとくな」#top


第2幕:エコソーセージパン

重い空気が店内に満ちる中、制服に着替え終えたたきなが、すっくと立ち上がった。その瞳には、任務遂行時の光が宿っている。

「……私にも責任の一端があります。明日より、喫茶リコリコの経費最適化を実行します」
「えっ、たきながやるの!?」
千束が驚きの声を上げる。
「はい。節約は正義ですから」
「正義っていうか、義務よ、義務!」
ミズキがすかさずツッコミを入れるが、千束は胸騒ぎを覚えていた。
「なんか……すっごい嫌な予感しかしないんだけど~!」

翌朝。厨房から、香ばしいがどこか釈然としない香りが漂ってきた。

「ん~、いい匂い~。……でも、なんか、形が……すごくない?」
千束がおそるおそる厨房を覗くと、たきなが真剣な顔でオーブンからパンを取り出していた。
「“エコソーセージパン”です。オーブンの余熱のみで焼ける、エネルギー効率を最大化した形状です」

皿の上に鎮座する、流体力学的に無駄のない、あまりにも直球な二本のパン。

「たきなぁぁ!! これ、形がアウト! 直球すぎるって!!」
千束が絶叫するが、たきなは本気で首をかしげている。
「? 熱効率と空気の流れを計算した、理想的な形状ですが」
「……アウト」
カウンター席でコーヒーを飲んでいたミズキが、静かに呟いた。
「速報。『#環境に優しい形状』、トレンド入りみたいだ」
ソファからクルミが淡々と報告する。
「なんでバズってんのよ!?」
「好評のようですので、量産体制に入ります」
「やめてぇぇぇ!!!」#top


第3幕:チョコバナナ・リコイル

昼過ぎ。客足が途絶えた頃、たきなが自信作を手に戻ってきた。

「次は廃棄食材の削減です。“チョコバナナ・リコイル”をどうぞ」
「名前からしてもうイヤな予感しかしない!」
千束の予感は的中した。皿の上には、テカテカと黒光りし、絶妙な曲線を描くバナナが二本、寄り添うように盛られている。

「……完全にアウト」
ミズキはこめかみを押さえた。
「曲線を追求した結果です。この自然な丸みが、美味しさを視覚的に増幅させます」
たきなは、自分のプレゼンに満足げに頷いている。
「その冷静な説明がもうダメだって!」
「レビュー。『笑いすぎて飲み込めない』、『家族には見せられない』。以上」
クルミがネットの反応を読み上げる。
「やはり。購買意欲を刺激できているようですね」
「ちがう意味で刺激しちゃってるのよぉ!」#top


第4幕:ぷにぷにプリンと大赤字

夕方。店内に甘く、濃厚な香りが満ちる。今度こそまともなものが、と千束が期待した瞬間、たきなが運んできたものを見て、その期待は砕け散った。

「低コストで高付加価値を。新作“ぷにぷにプリン”です」
「もう名前でわかる! 絶対ダメなやつだ!」

皿の上で、二つ並んだプリンが、ぷるん、ぷるんと豊かに揺れている。

「たきな、これ二個並べるのやめなさい。完全に……」
ミズキはもう言葉を失っている。
「視覚的シンメトリーがバランスの良さを演出します」
「バランスの問題じゃないのよ!」
「『#ぷにぷにダブル』トレンド入り。売上、過去最高を更新中」
クルミの報告に、ミズキが目を見開いた。
「で、経費は!?」
「高級卵とバニラビーンズ使用。材料コスト、3.2倍」
「……」
たきなの顔から、すっと表情が消えた。
「つまり大赤字ー!」
千束が叫ぶ。
「経費削減っつってんのに、真逆じゃないの!!」
ミズキの怒号が店内に響き渡り、たきなはがっくりと肩を落とした。
「私の……緻密な計算が……」#top


第5幕:救世主はソファの上

「出費、増えてるわよ。ネタのための材料費、バズったせいの宣伝費、笑いすぎて割れた皿の修理費。寒さ以前の問題よ」
ミズキがため息混じりに報告する。
「笑いは取れたけど、お金は綺麗に消えてったね……」
千束も乾いた笑いを浮かべるしかない。
「……分析と実行プロセスに重大なエラーがありました。申し訳ありません」
たきなは、机に突っ伏して本気で落ち込んでいる。
「まぁ、千束は楽しそうだったぞ」
クルミがボソリと呟くと、千束は慌てて手を振った。
「クルミちゃん、全然フォローになってない!」

その時、深夜の静寂を破って、クルミのタイピング音がカチカチと止まった。

「……ん、反映完了」
「何をよ?」
ミズキが気だるげに尋ねる。
「在庫整理とネット販売の再構築。あと、トレンドに乗っかって、例のプリンのレシピを有料公開。値付けも調整してみた」
「えっ、そんなことをいつの間に……」
たきなが顔を上げる。
「裏方でやるほうが安上がり。ほら、これで翌月分、黒字転換」
クルミはタブレットのグラフを見せながら、小さくあくびをした。
「うわぁ……! 救世主! さすがクルミちゃん!」
千束がクルミに抱きつこうとするのを、クルミは片手で制した。
「……私は、努力の方向性を誤り、結果が出なかったというのに」
落ち込むたきなの頭を、千束がわしゃわしゃと撫でた。
「でもさ、たきなのおかげで、笑いは最高だったよ!」
「笑いでは支出は埋まりません」
「けど、おかげで心は温まったでしょ?」
ミズキが、仕方ないわね、という顔で笑う。
「……それは、否定できません」
たきなは、少しだけ頬を赤らめた。#top


エピローグ:雰囲気はすこぶる良好

結局、暖房の温度は1度下げられたまま。
ストーブの前に集まり、温かいマグカップを手にする四人。

「結局、経費はギリギリだったけど…なんか元気出たね!」
千束が笑う。
「次こそは、改善の方向性を見誤りません」
たきなは早くもリベンジに燃えている。
「次があるの!? もう、味だけで勝負しなさいよ、味で!」
ミズキが釘を刺した。
「了解しました。では、新作“バナナぷにぷにミックスパフェ”を」
「「やめろぉぉぉ!!」」
千束とミズキの絶叫がハモった。
「ブレーカーのログ、監視強化しとくね。冬は長いし」
クルミが、やれやれとため息をつく。

笑いとため息の混じる店内に、どこからか、プリンのぷるん、という幻聴が響いた。
経費は救われずとも、雰囲気はすこぶる良好。それが、喫茶リコリコの冬だった。#top


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