【リコリコSS】忙しい夏休み最後の1日の物語【ファンアート】

夏の終わり、喫茶店に集まった千束、たきな、クルミ。
彼女たちの穏やかな夏の余韻は、突然の出来事によって破られることに。
これは、夏休み最後の1日と、新たな任務の始まりを描いた物語。

リンク:リコリス・リコイル公式

【リコリコ】夏の終わりのリコリスたち

夏休みの終わる音

東京の片隅にある喫茶店。夏の夕暮れの名残を抱えた風が、窓辺のカーテンをやさしく揺らしていた。店内にはクーラーの涼しさと、どこかまだ残る夏の熱気が混ざり合っている。

「ふぁ〜……夏休みって、ほんっとあっという間に終わっちゃうんだよね〜」
カウンターに突伏すようにして、錦木千束がいつもの調子で声をあげた。制服の袖をまくり上げ、表情にはどこか名残惜しさがにじんでいる。

「あなたは休みというより、ただ遊んでただけでしょう?」
冷ややかな視線で返すのは、井ノ上たきな。背筋をピンと伸ばしながらアイスコーヒーを口に運ぶ姿は、夏の間に乱れることのない彼女の性格をよく表していた。

「えへへ、だってさ〜。海に行ったり、花火したり、スイカ割りしたり! これを満喫しないでどうするの?」
「……私は射的で真剣勝負しただけですけど」
「そうそう、それで景品全部取っちゃってさ。屋台のおじさんの顔、忘れられないなぁ〜」

二人のやりとりを見守りながら、ノートPCを叩いていたクルミがため息をつく。
「ボクから言わせてもらえば、あんたたちが無駄に夏を燃やしてる間に、サーバーのセキュリティ更新は山積みだったんだぞ? おかげでボクは一晩中モニターとにらめっこ」
「えーでもクルミだって夜にかき氷食べてたじゃん。ブルーハワイ味」
「……あれは、冷たくて頭がキーンってなる実験だから!」

小さな笑いが店内に広がり、夏の終わりを惜しむような空気が漂った。#top


遠い島のパンケーキ

話題は自然と、夏休みの思い出の延長線上にあった夢に向かう。
「ねぇ、たきな。次の休みがあったらさ……ハワイとかどう?」
千束が目を輝かせてそう口にすると、たきなはわずかに首をかしげた。
「……ハワイ? 海外任務じゃなくて?」
「ちがーう! 任務じゃなくて観光! ワイキキビーチでのんびりして、パンケーキ食べて、ショッピングして!」

想像の中で膨らんでいく千束の声に、たきなの表情がほんの少し和らぐ。
「……パンケーキは、興味あります」
「ほら来た! たきなも絶対ハワイ好きになるって!」

するとクルミが、あきれ顔で椅子に背を預ける。
「ボクはパソコンとネットがあればどこだって変わんないよ。ハワイのサーバーだって、日本から遠隔で触れるんだから」
「いやいや! でも南国の風を感じながらのWi-Fiは違うんだって!」
「……そんな非科学的なことあるか?」

くだらないやりとりが続く中、三人の笑顔は夏の終わりに一層輝きを増していた。#top


平穏を破るドアベル

そのときだった。喫茶店の扉が乱暴に開け放たれる。
「……っ!」
たきなの目が鋭く光ると同時に、千束もすばやく立ち上がる。見知らぬ男が飛び込んできて、店内に不穏な空気が走った。
「ちょっと逃げ込ませてもらうぜ!」

肩で息をするその男の後ろには、追跡者らしき影がちらりと見える。
「お客さん、うちに乱入するのはノーサンキューなんだよね〜」
千束は飄々とした口調のまま、しかし目には油断のない光を宿して前に出る。

「千束、後方は任せます」
「了解! たきなは正面ね!」
たきなが即座に姿勢を整え、正確無比な動作で追跡者の動きを制圧する。一方で千束は軽やかなステップで男の動線を封じ、あっという間に場を収めた。

「ふぅ〜……やっぱりこういう緊張感、夏バテも吹き飛ぶねぇ」
「……もう、無駄にテンションを上げないでください」
クルミはカタカタとキーボードを叩きながら呆れたように言う。
「ボクのセンサーに不審者の反応出てたのに、二人が話に夢中で聞いちゃいないんだから」
「ごめんごめん、ハワイで頭いっぱいだったから!」
「言い訳になってないよ!」#top


夏が終わり、物語が始まる

事態が落ち着いた頃、店の奥からミカが静かに現れた。
「千束、たきな。新しい任務だ」
渡されたファイルには、次なるリコリスの活動内容が記されている。

「……これって、新学期からすぐ動く感じ?」
「そうだ。休みは終わりだな」

千束は小さく肩をすくめて笑う。
「やっぱりハワイは遠のいちゃったかぁ」
「最初から現実味がありませんでしたから」
「……ボクは助かったけどね」

三人の声が交わり、喫茶店の空気に再び柔らかな笑いが広がる。夏の思い出を胸に抱きながらも、新しい日常と任務が彼女たちを待っている。

そして翌朝。制服に袖を通したたきなは、窓から差し込む朝日を受けてふと立ち止まった。
「……また、新しい日々が始まる」
千束は背後からひょいと顔を出し、無邪気に笑う。
「大丈夫だよ。どんな任務でも、また一緒に楽しめばいいんだから!」
クルミはパソコンを抱えたまま、少し照れくさそうに小さくつぶやいた。
「……まあ、ボクも手伝ってやるよ」

三人は足並みを揃え、喫茶リコリコから新しい一歩を踏み出していく。夏は終わった。けれど、彼女たちの物語はこれからも続いていく。#top


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