【ごちうさSS】黒猫ちゃんを探して、秋色の秘密の場所へ【ファンアート】

あらすじ|ハロウィンを待つ街で、黒猫探しの小さな冒険

ハロウィンの飾りが少しずつ増え始めた、十月の街。ラビットハウスの飾りつけを手伝った帰り道、チノ・マヤ・メグ・フユは、かぼちゃの隣に座る一匹の黒猫と出会います。

もう少しだけ近くで見たい。そんな気持ちで路地をのぞいた四人でしたが、黒猫は見つかっては姿を消し、捜索はいつの間にか寄り道だらけの冒険に。

見間違いに、先回りの失敗に、猫だけが通れる近道。四人がたどり着く先には、いつもの街の、まだ知らなかった顔が待っていました。

作品公式サイト:ご注文はうさぎですか?


1.その飾り、動きます

十月に入ったばかりの街には、まだ魔女もおばけも少なかった。

代わりに、これから魔女になる予定の帽子や、おばけになる途中の白い布が、店先の箱から少しずつ顔を出している。

ラビットハウスの窓にも、今日、かぼちゃが三つ増えた。

紙のかぼちゃを貼る位置で少し迷い、結局メグの案で一つだけ斜めにした帰り道。四人の靴音が、午後の石畳に軽く重なっていた。

マヤ「チノ、最後のかぼちゃ、やっぱり眠そうだったな」

チノ「マヤさんが目を細く切ったからです」

メグ「でも、コーヒーを飲みに来たみたいでかわいかったよー」

フユ「眠気覚ましだ」

チノ「窓の外に貼ってしまいましたけど」

マヤ「じゃあ、ずっと眠いままじゃん」

メグがくすくす笑った。その横で、フユが抱えている茶色い猫のぬいぐるみも、歩くたびに小さく揺れる。

通りの角にある花屋では、鉢植えの隣に本物のかぼちゃが並べられていた。大きいもの、小さいもの、表面のでこぼこしたもの。その横に、つやつやした黒猫が一匹。

マヤ「おっ、こっちはもう完成してる。黒猫までいるぞ」

黒猫は前足をきちんとそろえ、しっぽを体に巻きつけていた。

マヤが腰をかがめる。

マヤ「これ、よくできてるな。毛まで――」

猫の耳が、ぴくりと動いた。

マヤ「うわっ、生きてる!」

マヤの肩が跳ねた。猫は少しも驚かず、黄色い目でその動きを見届けてから、ゆっくりあくびをした。

チノ「本物ですね」

マヤ「いま分かった!」

メグ「お仕事中だったのかなー。かぼちゃのお隣で」

フユはもう、マヤの横にしゃがんでいた。ぬいぐるみを片腕に抱き直し、空いた手を膝の上に置く。

黒猫と目が合った。

フユ「……こんにちは」

猫はあくびを閉じた口で、小さく舌なめずりをした。

フユがほんの少し身を乗り出す。

その直前、黒猫は立ち上がった。花屋の前を横切り、四人の靴先から二歩ほど離れたところを通って、細い路地へ入っていく。

伸ばしかけたフユの手が、膝に戻った。

マヤ「行っちゃうのか。もうちょっといてもいいのに」

メグ「お出かけの時間だったんだねー」

路地の入り口で、黒猫が止まった。

振り向いて、こちらを見る。耳を動かすと、また二、三歩進んだ。

フユも立ち上がった。

マヤ「……ちょっと見に行く?」

フユはすぐにうなずき、うなずいたあとで、残る二人を見た。

チノ「次の角までなら。追いかけて驚かせないようにしましょう」

メグ「うん。ゆっくりだねー」

先頭に立ったマヤが、わざと大きな忍び足をする。フユがその後ろへ続き、メグもつられて足音を小さくした。

チノ「そこまでしなくても……」

そう言うチノの靴も、路地に入ったところで、そっと石畳に下ろされた。


2.黒猫、多すぎ問題

次の角に、黒猫はいなかった。

小さな雑貨屋と、煉瓦の壁。窓から垂れる植木の葉が、風に揺れているだけだった。

マヤ「速くない? あんなのんびり歩いてたのに」

チノ「私たちがゆっくりすぎたのでは」

マヤ「作戦に欠点があったな……」

フユは壁の際を見ていた。メグは植木の下をのぞき、チノは通りの向こうへ視線を送る。

そのとき、マヤがフユの袖を引いた。

マヤ「いた。あそこ、木箱の後ろ。耳が見える」

二つの尖った耳が、木箱の上から出ている。

今度は驚かせまいと、四人そろって静かに近づいた。

マヤが木箱の横から顔を出す。黒猫も、まん丸な目でこちらを見ていた。

そのおなかに、白い文字が書いてある。

『ハロウィン小物、入荷しました』

マヤ「……広告を背負ってる」

チノ「看板です」

メグ「さっきの猫さんと、同じ座り方だねー」

フユが看板の横へ回った。

フユ「薄い」

マヤ「確かめなくても、もう動かないって!」

雑貨屋の扉が開き、商品を並べに出てきた店主が、四人の様子に目を細めた。黒猫のことを尋ねると、よくこの辺りを通るのだという。少し先の、小さな噴水のある広場でも見かけるらしい。

お礼を言って歩きだすと、今度はチノが足を止めた。

チノ「待ってください。あちらです」

窓辺の籠から、細く黒いものが垂れていた。

先端がくるりと曲がり、左右に動いている。

チノ「今度は動いています。籠の中で休んでいるのかもしれません」

マヤ「おっ、チノ発見か?」

チノは少しだけ顎を引き、慎重に窓へ近づいた。

一歩。もう一歩。

ちりん、と窓の上で小さな鈴が鳴った。

黒いしっぽが、風に吹かれて籠の外へ大きく揺れる。反対側の端は、紙でできた猫のおしりにつながっていた。

四人の間を、同じ風が通り抜けた。

マヤ「動いてるな」

チノ「……動いては、います」

フユ「風で生きる猫だ」

チノ「そこまで説明しなくても大丈夫です」

チノは籠から一歩離れた。もう一歩離れて、何事もなかったように広場の方を向く。

その耳が少し赤いので、メグはそちらを見ないようにした。

そして、代わりに見た植木鉢の下で、ふわりと動くものを見つけた。

メグ「あ、猫さん」

マヤ「今度は本物か?」

メグ「うん。でも、白いねー」

白猫は鉢植えの日陰で丸くなっていた。メグがしゃがむと、片目だけを開く。

メグ「こんにちは。黒い猫さん、見なかった?」

返事の代わりに、白猫の前足が伸びた。

メグ「そっか、お昼寝中だったねー」

フユも隣にしゃがんだ。茶色いぬいぐるみの顔を、白猫へ向ける。

フユ「失礼した」

マヤ「なんで二人とも落ち着いちゃってるんだよ。黒猫は?」

チノ「マヤさん、声が大きいです。寝てしまいます」

マヤ「寝てるならいいじゃん。起きちゃうんだろ?」

チノ「……そうでした」

白猫を見ていたチノが、こほんと咳払いをした。

マヤは三人を順に見た。自分だけが捜索を続けている気がする。

ふと顔を上げた、その先。低い塀の上から、黒いしっぽがするりと消えた。

マヤ「あっ、黒!」

三人が一斉に立ち上がる。

白猫は片耳を動かし、また眠った。


かぼちゃや落ち葉に彩られた雑貨屋の前で、木製の黒猫看板を指さすマヤ

3.猫用の近道は使えません

黒猫は塀の上を歩いていた。

端まで行くと隣の石積みへ軽く移り、細い隙間を抜けて、向こうの通りへ降りていく。

フユ「あっちだ」

マヤ「よし。先回りしよう」

チノ「道、分かるんですか?」

マヤ「この塀の向こうに出ればいいんだろ。右へ行って、もう一回右!」

簡潔で、頼もしい作戦だった。

四人は右へ曲がった。花の終わった鉢植えの前を通り、干されたテーブルクロスの下をくぐり、次の角も右へ曲がる。

メグ「いい匂いがするねー」

途中の窓から、焼きたてのバターの香りが流れてきた。

マヤ「帰りに見よう。今は先回り!」

フユ「覚えておく」

チノ「猫の場所も覚えておいてください」

さらに角を曲がると、黒い耳が見えた。

マヤ「ほら、いた!」

『ハロウィン小物、入荷しました』

黒猫は、変わらぬ熱意で商品を宣伝していた。

マヤ「おまえかー!」

店の中から店主が顔を出し、笑いながら手を振ってくれた。メグが振り返す。チノも小さく頭を下げた。

フユ「覚えた場所には戻れた」

マヤ「帰ってくるのが早すぎた!」

道は途中で大きく曲がっていたらしい。猫がひとまたぎした区画を、人間四人は丁寧に一周していた。

チノ「先回りというより、私たちが回りましたね」

マヤ「次の作戦を考えてるから、ちょっと待って」

マヤが腕を組む横で、メグが上を見た。

メグ「あ、戻ってきてくれたの?」

隣の塀の上に、黒猫がいた。

こちらを見下ろしたまま、片方の前足を上げている。ひと舐めし、顔をぬぐい、もうひと舐めする。

四人の作戦会議は、猫の洗顔より長くかかっていた。

フユ「待っていたのかもしれない」

チノ「顔を洗っているだけかもしれません」

マヤ「どっちでもいい。今度は見失わないぞ」

塀の終わりを確認し、四人は通りを歩いた。

猫は上。四人は下。

少し進むたびにマヤが見上げ、フユがうなずく。メグがつられて見上げたところで、チノがそっとその肩を引いた。目の前を、荷物を積んだ手押し車が通る。

メグ「ありがとう、チノちゃん」

チノ「前も見てください」

マヤ「じゃあ分担だな。私とフユが猫を見る。チノが道を見る」

メグ「私は?」

マヤ「みんなを見る!」

メグ「うん。みんな、楽しそうだよー」

あまりに早い報告に、マヤが笑った。

その隙に、黒猫は塀から降りた。

フユ「いない」

チノ「分担したばかりですが」

マヤ「まだ練習!」

四人は塀の先へ顔を出した。

小さな噴水の広場だった。中央の水盤には、葉が一枚浮かんでいる。黒猫はその縁に上がり、水をのぞき込んでいた。

フユが近づきかけ、今度は自分で足を止める。

黒猫の隣には、黄色い落ち葉が一枚。尖った耳によく似ていた。

フユは腕の中のぬいぐるみを見下ろし、その頭についた糸くずを取った。顔を上げると、黒猫とまた目が合った。

しばらく、どちらも動かなかった。

マヤも口を閉じたまま、そばで待っている。

先に動いたのは、噴水の水だった。風に流された飛沫が猫のひげに触れる。

黒猫は顔を振り、縁から降りた。

そして広場の反対側、上り坂になった小道へ、しっぽを立てて入っていく。

マヤ「……水にも負けるのか、私たち」

チノ「勝負はしていません」

フユは小道を見たあと、三人を見た。

今度は何も言う前に、マヤがそちらへ靴先を向けた。


4.最後の角、そのもう少し先

噴水の裏には、細い抜け道が二本あった。

マヤは一度右を見てから、慎重に左を見た。フユも同じ順番で確かめる。

マヤ「今度は勘で決めないからな」

フユ「私も考えている」

メグ「二人とも、首の動きが猫さんみたいだねー」

チノが足元を指さした。

チノ「こちらにいます」

黒猫は道の選択が終わるのを待たず、手前の木箱の陰へ入っていた。四人が見ている前で、その向こう側へ抜ける。木箱と壁の間は、猫一匹がちょうど通れる幅だった。

マヤ「また猫用か……」

フユは隙間を見て、自分の肩幅を確かめた。

チノ「通れませんよ」

フユ「この子なら通れる」

茶色いぬいぐるみが少し持ち上がる。

マヤ「向こうに行ったあと、どうするんだよ」

フユは考え、そっと腕の中へ戻した。

メグ「迎えに行く猫さんが増えちゃうねー」

木箱を回る道は、ほんの数歩先にあった。回り込んだマヤが振り向き、今度こそ、と小さく胸を張る。

マヤ「よし。全員いるな」

チノ「猫も含めてですね」

黒猫はもう、その先の坂を上り始めていた。

坂道は、思ったより緩やかだった。

けれど歩き続けると、足にはちゃんと分かる。メグの歩幅が少し小さくなり、マヤもそれに合わせて速度を落とした。

店先の呼び声は、いつの間にか遠い。

窓辺には小さなかぼちゃが一つ。まだ何も結ばれていない飾り紐が、二階の手すりから垂れている。

黒猫の姿は、坂の途中でまた見えなくなった。

チノ「この先にいなければ、そろそろ戻りましょうか」

マヤ「そうだな。暗くなる前に帰らないと」

メグ「帰り道は分かる?」

マヤ「坂を下りれば、あの看板が迎えてくれる」

チノ「ずいぶん頼りにしていますね」

フユ「顔見知りだから」

四人の笑い声が、狭い道の壁にやわらかく返った。

坂の脇に少し広くなった場所があり、メグがそこで立ち止まる。靴紐がほどけかけていた。

マヤ「休憩しよう。私もちょっと暑い」

マヤは上着の前を開け、石の壁にもたれた。チノも買い物袋を持ち替える。中には、飾りつけのあとで買った紙ナプキンと、新しいリボンが入っていた。

フユ「……たくさん歩かせた」

ぬいぐるみの耳を指で整えながら、フユが言った。

マヤ「私が一周させた分もあるけどな」

チノ「その分が、かなりあります」

マヤ「次はちゃんと地図を見るって」

メグ「でも、お菓子のお店も見つけたよー」

結び終わった靴紐を確かめて、メグが顔を上げる。

メグ「あそこ、今度みんなで入ろうね」

フユの指が止まった。

フユ「……うん」

風が坂を上がってきた。足元の葉が二枚、乾いた音を立てて転がる。

メグがその行方を目で追い、首をかしげた。

メグ「ねえ、こっちにも道があるよ」

建物の間に、細い石段があった。

入り口の陰に葉がたまっていて、正面から見るまで階段だと気づかなかった。脇には鉄の手すりがあり、上の方だけに日が当たっている。

メグが最初の段を指さした。

乾きかけた小さな足跡が、一つだけ残っていた。

マヤ「猫の足跡?」

チノ「噴水のところで、足が濡れたのかもしれませんね」

フユが手すりの横から、そっと上をのぞく。

黒猫がいた。

一番上の段に座り、明るい方を向いている。黒い背中の縁だけが、金色に光っていた。

フユ「……見つけた」

声は小さかったが、三人には届いた。

猫が振り向く。

誰も動かなかった。階段の下で、四人分の顔が少しずつ角度を変えて並ぶ。

マヤは息を止めすぎて、静かに吐き直した。

黒猫は逃げなかった。

ただ立ち上がり、最後の段の向こうへ、ゆっくり消えていく。

マヤ「……あそこまで、行ってみるか」

チノは石段の上を見てから、うなずいた。

フユも、メグも。

今度は忍び足の競争をせず、一段ずつ上がった。靴の下で、落ち葉がかさりと鳴る。


5.街が、ひとつにつながる場所

最初に上まで出たマヤが、右手を上げた。

マヤ「あ、いた――」

その手が、途中で止まった。

フユが隣へ出る。メグが続き、最後にチノが石段を上がりきった。

目の前を遮っていた建物が、なくなった。

空が広い。

低い石壁の向こうへ、屋根が幾重にも重なっていた。

赤茶色の瓦も、煙突の白い縁も、西日の中でやわらかく色を変えている。屋根と屋根の間を通る道は細い帯になり、そこを歩く人の影が、小さく伸びていた。

街路樹はまだ緑を残していた。それでも日の当たる葉先には黄色が混じり、風が枝を揺らすたび、違う色がきらりと返る。

遠くの窓が一枚、夕日を映した。

少し遅れて、別の窓も光った。

メグ「……わあ」

それきり、しばらく言葉が続かなかった。

広場と呼ぶには小さな場所だった。壁沿いにベンチが一つ、傍らに大きな木が一本。誰かが掃いたらしく、落ち葉は端へ寄せられている。

黒猫はベンチのそばに座っていた。

追いかけてきた四人には見向きもせず、街を眺めている。

マヤ「こんなとこ、あったんだ……」

チノも初めて見る景色だった。

知っている屋根がある。見覚えのある通りもある。けれどそれらを一度に見たことはなく、遠くにあると思っていた建物が、別の屋根のすぐ隣に立っていた。

メグ「あそこ、お水が光ってる」

指さした先に、小さな噴水が見えた。水盤の丸い形を見つけ、フユが石壁へ一歩近づく。

フユ「あそこから来た」

マヤ「じゃあ、その手前が猫の塀だな。で、私たちが行ったのが……」

マヤの指が、屋根の間をたどって止まった。

チノ「きれいに一周していますね」

マヤ「上から見ると、すごく分かりやすいな!」

メグ「いっぱい歩いたと思ったのに、小さな丸だねー」

フユ「もう一周できそうだ」

マヤ「今日はしない!」

笑いながら目で追うと、あの雑貨屋の店先も見つかった。看板の文字までは読めないけれど、黒い輪郭が通りに少し張り出している。

その先に、バターの匂いがした店の庇。

白猫が寝ていた植木鉢は、屋根に隠れて見えない。メグはその辺りへ目を向け、まだ寝ているかな、と小さく笑った。

窓辺の飾り。遠回りした角。手押し車に道を譲った細い通り。

さっきまで一つずつ曲がっていた場所が、夕日の中でつながっていた。

チノは買い物袋の持ち手から、少し力を抜いた。

チノ「いつもの街なのに……違って見えますね」

マヤ「秘密基地みたいだ」

メグ「猫さんの?」

マヤ「うん。すごいの持ってる」

フユが振り向いた。

黒猫は前足をそろえたまま、目を細めている。

花屋の前と同じ座り方だった。

けれど今は、飾りと間違える気がしなかった。ひげの先が風に揺れ、背中が呼吸に合わせてかすかに動いている。

フユはベンチのそばへ行き、少し離れてしゃがんだ。

手を伸ばす代わりに、抱えていたぬいぐるみを膝に座らせる。

茶色い猫にも、同じ街が見えるように。


夕焼けの街を望むベンチで、茶色い猫のぬいぐるみを膝に載せ、隣の黒猫をなでるフユ

6.黒猫の案内したかったもの

マヤがベンチの端に腰を下ろした。

さっきまで少し暑かった首元へ、涼しい風が通る。隣を手で払って、メグを呼んだ。

チノはもう一度景色を見てから、フユのそばに腰を下ろす。買い物袋は足元へ置いた。

誰も、猫を呼ばなかった。

黒猫はしばらく街を見ていたが、やがて立ち上がり、ベンチに沿って歩きだした。

フユの靴の前で、足を止める。

細い鼻が、靴先の匂いを確かめた。

マヤが何か言いかけ、メグがその袖をそっとつまむ。

黒猫はフユの靴へ頬を寄せた。軽くこすりつけ、しっぽをゆるく曲げて、そのまま隣に座る。

フユは動かなかった。

膝の上のぬいぐるみを抱く指だけが、少し深く沈んだ。

チノが横から見ると、その口元がほんのわずかに緩んでいた。

夕日の色が、さっきより濃くなっている。

下の通りでは、店主が軒先に飾りを吊るしていた。オレンジ色の小さなものが風に揺れる。かぼちゃかもしれない。ここからでは顔までは見えなかった。

メグ「……ここを見せたかったんだね」

メグは景色から黒猫へ目を移して、そっと言った。

黒猫の耳が、声の方を向く。

マヤ「だったら、もうちょっと分かりやすく案内してくれてもいいのにな」

笑う声も、いつもより少し小さい。

マヤ「途中、看板と間違えたぞ」

チノ「それは、私たちが……」

言いかけて、チノは口を閉じた。

フユが黒猫の隣で、同じ方を見ている。

肩が触れるくらいのところにメグがいて、その向こうでマヤが脚を休めている。足元の袋からは、窓を飾るためのリボンが少しだけのぞいていた。

チノはその端を袋の中へ戻し、顔を上げた。

いちばん遠くの屋根まで、夕日が届いていた。

フユ「……いい場所だね」

黒猫が、短く鳴いた。

マヤもメグもそちらを見る。チノも目を向けたが、猫はもう、何も言っていないような顔で前を向いていた。

フユは、そっと隣に手を置いた。

その指先に黒い毛が触れても、今度は急いで撫でようとしなかった。

風に押された黄色い葉が一枚、石畳を滑ってきた。猫の前で止まり、しっぽの先が一度だけ、その縁をなぞる。

遠くで、鐘が鳴り始めた。

四人はしばらく、その音が屋根の向こうへ広がっていくのを聞いていた。

ベンチの足元から、四人と一匹の影が長く伸びていた。

小さな猫の影の先だけが、もう少し先の秋に届いていた。


秋の夕日に染まる街を背景に、マヤ、メグ、チノ、フユがベンチに並び、足元の黒猫と過ごす集合イラスト

最後までお読みいただき、ありがとうございました。四人と黒猫が見つけた秋のひとときを、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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※本記事は『ご注文はうさぎですか?』を題材とした非公式の二次創作SSです。原作・公式とは関係ありません。

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