あらすじ|結束バンドが山田リョウを自由研究?
夏休みのある日。
「せっかくなら、大人の自由研究をしませんか?」
喜多郁代の何気ない提案から始まったのは、結束バンドでも特に行動の読めないベーシスト・山田リョウの休日観察でした。
交通費を使わず歩き、食費まで節約し、最後には高級ベースを次々と無料試奏。
本人はいたって真面目なのに、なぜか見ている側の不安だけが増えていきます。
「さすがリョウ先輩!」と全肯定する喜多。
妙なところで感化されてしまう後藤ひとり。
そして「あとで絶対注意する」と、ノートの筆圧がどんどん強くなっていく伊地知虹夏。
果たして三人は、山田リョウという生き物(?)を解明することができるのでしょうか。
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1.夏休みの自由研究|観測対象は山田リョウ
夏休みも、気づけば半分ほどが過ぎていた。
真夏の午後。
STARRYの待機室では、冷房の風を求めるように、結束バンドのメンバーが思い思いの場所へ散らばっていた。
「暑いですねぇ……」
喜多郁代がテーブルへ頬をくっつける。
「外に出た瞬間、五秒で戻りたくなりました」
「今日は特に暑いからねー」
伊地知虹夏も、冷たいペットボトルを額へ当てていた。
その横では、後藤ひとりが微動だにせず座っている。
暑さで動けないわけではない。
夏休みに入ってから、自分が特に何もしていないという事実を考え始めてしまったのである。
(夏休み……)
海。
花火。
旅行。
友達。
青春。
どれも遠い。
(私は今年も……冷房の効いた部屋でギターを弾いて、一年後には『去年の夏って何してたっけ』って思い出せなくなるんだ……)
夏の思い出が、室外機の音だけになる。
そんな未来がひとりの脳内に浮かんだところで、喜多が突然顔を上げた。
「そうだ!」
「な、なに?」
「自由研究しませんか?」
「自由研究?」
「せっかく夏休みですし!」
虹夏は少し考えた。
「私たち高校生だけど?」
「だから“大人の自由研究”です!」
「言い方だけ立派になった」
とはいえ、暇なのは事実だった。
喜多はもう楽しそうにスマートフォンを取り出している。
「何か面白いテーマありませんかね。音楽でもいいですし、街でもいいですし……」
そのとき。
虹夏が、ふと思いついたように言った。
「そういえばさ」
「はい?」
「リョウって、一人の休日は何してるんだろ」
三人が黙った。
部屋には今、その山田リョウだけがいない。
ひとりがゆっくり顔を上げる。
「た、確かに……」
考えてみれば謎だった。
リョウは気づくといる。
そして、気づくといない。
あとで何をしていたのか聞いても、
「歩いてた」
「ベース見てた」
「草があった」
など、肝心な部分だけが全部抜け落ちたような答えしか返ってこない。
「と、時々、この世の物理法則を無視したみたいに消えますよね……」
「ぼっちちゃん、それは言いすぎ」
虹夏が笑った。
しかし、喜多の目が輝いた。
「面白そうです!」
「え?」
「リョウ先輩の休日を観察しましょう!」
「待って喜多ちゃん」
「『山田リョウの休日に関する行動観察』!」
「タイトルまで決めるの早い!」
喜多は完全に研究者の顔になっていた。
しかも新品のノートまで取り出す。
「いつ買ったの、それ?」
「さっきです!」
「もうやる気だったんだ……」
「リョウ先輩の知られざる一面……絶対面白いですよ!」
「いやまあ、面白いとは思うけど……」
虹夏は腕を組んだ。
しばらく考え、一本指を立てる。
「条件ね」
「はい!」
「邪魔しない」
二本。
「こっちから何かさせない」
三本。
「バレない」
四本。
「変なことしてても、とりあえず見るだけ」
喜多が元気よく頷く。
「了解です!」
ひとりも小さく頷いた。
「わ、分かりました……」
虹夏は二人を見てから、小さくため息をついた。
「……なんで私、もう嫌な予感してるんだろ」
翌日。
三人は知ることになる。
その予感が、ものすごく正しかったことを。
2.支出0円の旅|街の解像度と3円の歩数ポイント
翌朝。
三人は駅前から少し離れた場所でリョウを発見した。
喜多は帽子。
虹夏はサングラス。
ひとりは電柱の陰。
「ぼっちちゃん、それ隠れてるっていうか不審者だよ」
「す、すみません……!」
観測対象のリョウは、三人に気づく様子もない。
スマートフォンを眺めている。
喜多が双眼鏡を覗き込んだ。
「見えました!」
「双眼鏡まで持ってきたの!?」
「本格的にやろうと思って!」
画面には、短い文章。
【本日の目標:支出0円】
「……」
虹夏がサングラスを少し下げた。
「いきなり怪しくない?」
「節約チャレンジですよ!」
喜多は早くもノートへ書く。
『計画性がある』
虹夏が覗き込んだ。
「まだ何もしてないよ?」
リョウが歩き始めた。
駅の入口。
素通り。
「あれ?」
バス停。
素通り。
さらに歩く。
五分。
十分。
二十分。
「……歩きますね」
喜多は楽しそうだった。
「健康的です!」
虹夏は黙っていた。
まだ判断しない。
経験上、リョウについて早期に結論を出すと負ける。
三十分後。
ひとりの足取りが怪しくなった。
「ま、まだ歩くんですか……?」
「ぼっちちゃん大丈夫?」
「私の体力ゲージが……もう黄色です……」
その前方。
リョウは淡々と歩き続けている。
しかも突然、大通りから細い路地へ曲がった。
虹夏が地図を見る。
「……そっち遠回りじゃない?」
さらに曲がる。
また曲がる。
ぼっちが不安そうに首を傾げた。
「み、道……間違えてませんか……?」
リョウは立ち止まった。
スマートフォンを見る。
そして小さく呟く。
「最短で移動すると、街の解像度が下がる」
三人。
「…………」
リョウは再び歩き始めた。
「知らない道には、知らないテンポがある」
喜多の顔がぱっと明るくなる。
「聞きました!?」
「聞いた」
「すごい! 街そのものから音楽を感じ取ってるんですね!」
ノートへ猛烈に書き込む。
『街を歩くこと=創作活動』
『日常の風景を音へ変換』
「さすがリョウ先輩……!」
喜多の背後に、存在しない花が咲いて見えた。
そして。
ひとりまで感銘を受けていた。
(遠回りすることで……街の解像度が上がる……)
自分も人混みが怖くて大通りを避け、知らない道へ入ることがある。
(じゃあ私も……)
陰キャだから逃げていたのではない。
(街を深く理解するために、無意識にフィールドワークしていた……!?)
十五年間の人生が突然、芸術活動へ書き換えられていく。
「わ、私も今度から遠回りしようかな……」
「ぼっちちゃんまで何かに目覚めないで」
虹夏だけが冷静だった。
そのとき。
リョウが再びスマートフォンを見る。
満足そうに呟いた。
「三円」
「え?」
三人が画面を見る。
【本日の歩数ポイント:3円相当】
沈黙。
虹夏が叫んだ。
「そっちが目的かよ!!」
喜多が目を丸くする。
「でも、街の解像度も……」
「それ多分あとから思いついたやつ!」
「三円……」
ひとりは震えた。
あの距離を歩いて三円。
(時給換算したら……何か大切なものが壊れそう……)
虹夏は喜多のノートを奪い、余白へ強く書き込んだ。
【あとで注意①:3円のために何キロも遠回りしない】
文字の筆圧が、早くも少し強かった。
3.文明からの離脱?|野草と「低域の苦味」
正午。
普通なら昼食を考える時間だった。
リョウも商店街へ入る。
三人は期待した。
定食屋。
通過。
ラーメン屋。
通過。
コンビニ。
通過。
スーパー。
通過。
虹夏の眉間にしわが寄る。
「……嫌な流れになってきた」
やがてリョウは公園へ入った。
ベンチ。
通過。
自販機。
通過。
そして草地の前でしゃがんだ。
「……?」
ひとりが瞬きをする。
リョウは地面を見る。
スマホを見る。
草を見る。
またスマホを見る。
何やら入念に確認したあと、一本を摘んだ。
喜多が双眼鏡を構える。
「あっ」
「何?」
「食べられる野草を調べてます!」
「何してんの!?」
虹夏の声が一段高くなる。
リョウは慎重に調べながら、いくつか野草を集めていく。
喜多は感動していた。
「自給自足です!」
「そこ拍手するとこじゃない!」
「サステナブルですね!」
「喜多ちゃんの肯定力どうなってんの!?」
ひとりは青ざめていた。
「とうとう……貨幣経済から……」
「離脱してないから!」
リョウが摘んだ葉を見つめる。
少し味を確かめる。
表情は変わらない。
「苦い」
虹夏が即答する。
「でしょうね」
リョウは少し考えた。
「低域っぽい」
「味を周波数で表現するな!!」
喜多が再びノートへ書く。
『自然の味覚からも音楽的感性を得る』
「なんで格好よくまとめられるの!?」
その横で。
ひとりは、リョウをじっと見つめていた。
草を摘み。
徒歩で移動し。
貨幣を使わず生きる。
その姿を見ているうちに、ひとりの視界が歪み始めた。
――文明崩壊後。
荒れ果てた下北沢。
電車は止まり。
コンビニの看板は朽ち。
かつてSTARRYだった建物も、今では草木に覆われている。
その中央。
一人の少女が立っていた。
長い青髪。
肩にはベース。
周囲には、野草を手にした生存者たち。
『山田様……本日の収穫です』
リョウが葉を一枚取る。
『食べられる』
歓声。
その足元。
ボロ布をまとったひとりが涙を流す。
『この人についていけば……生き残れる……!』
現実。
「私……ついていきます……」
虹夏が振り返った。
「どこに!?」
「はっ!」
妄想が消えた。
リョウはスマートフォンへ何か入力している。
三人が覗く。
【本日の節約】
交通費 240円
昼食代 500円
歩数ポイント 3円
合計 743円
喜多が感嘆する。
「もう743円ですよ!」
ひとりも思わず頷いた。
「数値化されると……ちょっとすごいですね……」
「昼ご飯が草になった結果だからね!?」
リョウは数字を確認し、満足そうに呟いた。
「弦に近づいた」
喜多が胸元で手を組む。
「全部、音楽のためだったんですね……!」
ひとりまで感動している。
「す、すごい情熱……」
「二人とも正気に戻って!!」
虹夏はノートを開いた。
【あとで注意②:人間としての昼食を食べる】
①より明らかに字が大きかった。
しかも筆圧で、次のページにまでうっすら跡が残っている。
研究はまだ半分だった。
虹夏のノートだけは、すでに生活指導書へ変わり始めていた。
4.無料試奏は最高効率?|高級ベース6本の体験価値
午後。
リョウが入ったのは楽器店だった。
しかも、高級楽器が多く並ぶ店。
虹夏が少し安心する。
「ようやく普通の場所に来た」
喜多も嬉しそうに言った。
「やっぱり最後は音楽ですね!」
ひとりも頷く。
ここなら、さすがに変なことは起きない。
そう思った。
リョウは一本のベースを眺めた。
値札。
数十万円。
店員へ声を掛け、試奏させてもらう。
アンプから低い音が響いた。
三人は思わず静かになった。
やはり上手い。
数分間、リョウは真剣そのものだった。
音の伸び。
低域。
指への感触。
一つ一つを確かめているように見える。
喜多が小声で呟く。
「格好いい……」
ひとりも素直に思った。
普段がどれだけ変でも、楽器を持つと空気が変わる。
虹夏も少しだけ得意そうだった。
「まあね。こういうところはちゃんとしてるんだよ」
一本目終了。
返却。
二本目。
また試奏。
違うフレーズを弾く。
「比較してるんですね」
喜多が感心する。
三本目。
四本目。
五本目。
「……」
虹夏の表情が、少しずつ変わり始めた。
六本目。
ひとりが小声で言う。
「す、すごく念入りですね……」
喜多はまだ輝いている。
「妥協しないプロの姿勢です!」
「…………」
虹夏だけがリョウの顔を見ていた。
新品のベースを選ぶ人間の顔。
――ではない。
次に何を無料で弾くか考えている人間の顔だった。
リョウが店内を見渡す。
そして。
最も高そうな一本を指した。
虹夏の目が見開く。
「あいつ……」
「虹夏先輩?」
「あいつ、最初から一円も使う気ないな!?」
喜多とひとりが同時に振り返った。
「えっ!?」
「今日の目標『支出0円』だったでしょ!」
喜多はまだ抵抗する。
「でも、しっかり比較してから買うのは大切ですよ!」
「買わないんだって!」
店内。
リョウが店員へ告げる。
「次、これ」
虹夏:
「まだ弾くの!?」
もちろん声は届かない。
そのころ。
ひとりは別の意味で震えていた。
(数十万円の楽器を……『次これ』……)
自分には絶対に無理だった。
試奏をお願いした時点で、心の中には謎の購入義務が発生する。
十万円。
二十万円。
三十万円。
断れない。
気づけばローン契約。
大量の契約書を抱えて帰宅。
母親に、
『ひとり、ちょっと話があるんだけど』
と呼ばれる。
家族会議。
(無理……!)
一方リョウ。
試奏終了。
店員へ軽く礼。
何も買わない。
そのまま出口へ。
虹夏:
「本当に帰った!!」
店を出たリョウはスマートフォンへ入力する。
【高級ベース6本試奏:0円】
喜多:
「何十万円分もの体験を無料で……!」
虹夏:
「そういう価値換算するな!」
ひとりまで震えながら呟く。
「ベース六本だから……合計したら百万円を超える可能性も……」
「ぼっちちゃんも計算しなくていい!」
少し先。
リョウが独り言を呟いた。
「試奏は無料」
一拍。
「無料なら使う」
虹夏のこめかみが引きつった。
「楽器屋を無料の練習場として使うなーっ!!」
ノート。
【あとで注意③:買う気がないのに試奏を極めない】
今度は完全に、筆圧で紙がへこんでいた。
5.三者三様の山田リョウ像|偉人伝・危機管理・生活指導
夕方。
三人はSTARRYへ戻り、自由研究のまとめを始めた。
まず喜多。
「できました!」
得意げにノートを見せる。
タイトル。
『山田リョウという生き方』
虹夏:
「もう研究じゃなくなってない?」
内容。
『常識に縛られない』
『自然と共生する』
『健康のためによく歩く』
『街そのものから芸術を感じ取る』
『さまざまな楽器へ触れ、感性を磨く』
『すべては音楽のため』
虹夏が頭を抱える。
「偉人伝じゃん!」
「でも全部本当ですよ?」
「言い方!!」
同じ一日でも、編集によって人間はここまで格好よくなるらしい。
続いてひとり。
おずおずとノートを出す。
タイトル。
『山田リョウから学ぶ都市生活の危険』
喜多:
「?」
内容。
『金銭不足』
『栄養不足』
『長距離徒歩』
『野生化』
『社会との接点減少』
『最終的に文明圏から離脱する可能性』
喜多が首を傾げる。
「途中から終末世界になってない?」
「で、でも……今日の行動をずっと続けた場合、可能性としては……」
虹夏:
「ないよ」
「ゼ、ゼロとは……」
「ない」
最後。
虹夏のノート。
喜多が覗き込んだ。
「……タイトルは?」
「ない」
「え?」
ページには箇条書き。
『普通に電車に乗る』
『普通に昼ご飯を買う』
『草を昼食扱いしない』
『楽器店では節度を持つ』
『3円を利益として強調しない』
『試奏は購入検討の範囲内で行う』
喜多:
「虹夏先輩だけ研究じゃなくて生活指導書になってます!」
「見てたらこうなったの!」
三人は、自分たちのノートを並べた。
同じ山田リョウを観察したはずだった。
一冊は偉人伝。
一冊は災害対策資料。
一冊は生活改善計画。
虹夏が言う。
「共通点……ある?」
三人で考える。
しばらくして、ひとりがおずおず手を挙げた。
「本人は……全部、合理的だと思ってそうです……」
「それだ」
虹夏が即答する。
喜多も頷いた。
「確かに!」
三人は研究結果の最後へ書いた。
【結論】
『山田リョウは非常に合理的に行動している』
そして、その下。
『ただし、その「合理性」の基準が一般人と絶望的にズレている』
虹夏:
「これだけは全員一致だね」
ひとり:
「異議ありません……」
喜多:
「そこもリョウ先輩の魅力ですよね!」
「まあ……」
虹夏は少しだけ笑った。
「否定はしないけど」
こうして。
夏休みの自由研究は、無事に終了した。
少なくとも三人は。
そのつもりだった。
6.終わらない自由研究|山田リョウ、効率500%へ

翌日。
STARRY。
リョウはいつも通りソファに座り、ベースを触っていた。
自由研究のことは知らない。
喜多も普通。
ひとりも普通。
虹夏だけが。
全然普通ではなかった。
昨日一日かけて溜めた、
【あとで注意①】
【あとで注意②】
【あとで注意③】
が頭の中を回っている。
「……リョウ」
「何」
リョウが顔を上げる。
喜多とひとりの身体が同時に固まった。
研究がバレる。
虹夏は腕を組んだ。
「昨日、ちゃんとご飯食べた?」
リョウ:
「食べた」
「何を?」
「草」
「やっぱり!!」
喜多がびくっとする。
ひとりは椅子から落ちそうになった。
虹夏は一気に畳み掛ける。
「昼ご飯はちゃんと食べる!」
「食べられる草だった」
「そこじゃない!」
「毒はない」
「そういう問題でもない!」
リョウは不思議そうに虹夏を見る。
しかし、昨日一日分を溜め込んだ虹夏の説教は止まらない。
「あと! 三円のために何キロも歩かない!」
「健康になる」
「交通費を払って時間を買うって発想も持ちなさい!」
「歩けば無料」
「それと楽器屋!」
喜多とひとりの顔が青ざめた。
そこまで言ったら、尾行していたことがバレる。
だが虹夏はもう止まれなかった。
「何本も何本も試奏して、最初から一本も買う気なかったでしょ!」
リョウ:
「比較は大事」
「買う予定がある人の比較なの!」
「音は比較できた」
「店員さんの気持ちも考えろ!」
リョウはしばらく黙った。
虹夏が大きく息を吐く。
「分かった? もう少し普通に生活しなよ」
数秒。
リョウが頷いた。
「分かった」
虹夏の表情が少し緩む。
「ほんと?」
「昨日は効率が悪かった」
「…………は?」
リョウがスマートフォンを差し出した。
画面には、
【本日限定 歩数ポイント5倍】
リョウ:
「今日は同じ距離で十五円になる」
沈黙。
そして。
「効率500%」
喜多の目が輝いた。
「500%! すごい!」
「数字に騙されるな!!」
虹夏のツッコミがSTARRYへ響く。
ひとりはスマホを見つめていた。
(三円が十五円……)
確かに五倍。
(……ちょっとだけ……魅力的なような……)
「ぼっちちゃんも計算しない!!」
「ひゃい!」
リョウはベースケースを背負い、立ち上がった。
「じゃあ行ってくる」
虹夏が警戒する。
「どこ?」
「楽器屋」
「昨日行ったでしょ!」
「今日は別の店」
嫌な予感。
「何しに?」
リョウは当然のことのように答えた。
「比較」
虹夏の眉が跳ね上がる。
「何か買うの?」
「買わない」
「買う気がある人が言うセリフなの!!」
リョウは気にせず出口へ向かう。
その背中を見ながら、喜多が小声で言った。
「……今日も観察したいですね」
虹夏が即答した。
「しない!!」
ひとりは少しだけ考えた。
昨日書いた研究結果を思い出す。
――山田リョウは非常に合理的に行動している。
――ただし、その合理性の基準が一般人と絶望的にズレている。
扉の向こうへ消えていくリョウ。
おそらく今日も。
彼女なりの完璧な合理性に従って。
誰にも予測できない方向へ歩いていく。
そして廊下の向こうから、リョウの声がした。
「今日は遠い店にする」
虹夏:
「ポイント稼ぐ気満々じゃん!!」
夏休みの自由研究。
山田リョウの生態について。
結論は出た。
ただし。
研究対象本人に、改善の兆しはまったく見られなかった。
今回のSSでは、山田リョウの「本人なりには合理的だけれど、どこか常識からズレている」休日を、結束バンドの三人がこっそり観察する形で描きました。
同じ行動を見ても、「格好いい」と受け取る喜多、「危険なのでは」と心配するひとり、「あとで注意する」と頭を抱える虹夏。
そんな三人の反応の違いも含めて、結束バンドらしい賑やかな一日を楽しんでいただけたら嬉しいです。
『ぼっち・ざ・ろっく!』のキャラクターや作品については、公式サイトもぜひご覧ください。
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