あらすじ|結束バンドのハロウィン、ぼっちは陽キャに仮装する?
喜多郁代が計画したのは、衣装も飾りつけも写真も、全力で楽しむハロウィンパーティー。
「仮装なら、いつもと違う自分になれる」――その言葉を聞いた後藤ひとりが選んだ変身先は、まさかの「陽キャ」でした。
星形のサングラスに、光るブレスレット。覚える言葉は「それな」「最高」「ウェーイ」。そして、困ったときには乾杯を。
伊地知虹夏のツッコミと、山田リョウのマイペースな一言、喜多ちゃんのまぶしい笑顔に囲まれて、ぼっちちゃんの三日間の研究成果は通用するのでしょうか。
キラキラした集合写真を目指して始まる、結束バンドのにぎやかなハロウィンSSです。
作品については、TVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」公式サイトもご覧ください。
目次
結束バンド・ハロウィン計画――本日のぼっちは陽キャです

1.変身先は、まぶしい人
喜多:「ハロウィン、みんなで仮装パーティーしませんか!」
練習終わりのSTARRYで、喜多郁代がスマートフォンを差し出した。
画面には、かぼちゃのランタン、星形の飾り、色とりどりのお菓子。そして、頬を寄せ合って笑う女の子たち。
後藤ひとりは、そっと画面の明るさを確認した。
半分だった。
最大にしたら、自分はどうなってしまうのだろう。
虹夏:「いいじゃん! お姉ちゃんに聞いてみる。ライブのない日に、ここ借りられるかも」
喜多:「ありがとうございます、虹夏先輩! 私、飾りつけ考えてきますね。お菓子も、おばけの形とか可愛いと思って!」
リョウ:「おばけの形だと量が減る」
虹夏:「形の話してるんだから、まず形に興味持って」
喜多の指が動くたび、画面から新しい輝きが飛び出した。魔女帽子。黒猫の耳。小さな羽。おそろいのリボン。
喜多:「仮装なら、いつもと違う自分になれるし。せっかくだから、思いっきり楽しみたいなって!」
いつもと違う自分。
その言葉が、ひとりの胸に引っかかった。
普段の自分は、写真を撮ると言われるたびに壁との距離を測っている。笑顔を作れば証明写真の撮り直しになり、ピースをすれば指先だけが救難信号になる。
だが、仮装なら。
今日のこれは後藤ひとりではありません、という建前があれば。
ひとりの頭の中で、派手な衣装の自分が喜多と肩を組んだ。
ぼっち(妄想):『郁代、もう一枚いっとく?』
脳内の自分が言った。
実際のひとりは、椅子から三センチ浮いた。
ぼっち(心の声):(呼び捨て……! 今、喜多さんを呼び捨てに……! 誰ですかこの人。私の頭の中に知らない人がいます)
虹夏:「ぼっちちゃん? どうしたの?」
ぼっち:「あっ、いえ、今ちょっと……不法侵入が……」
虹夏:「どこに?」
ぼっち:「わ、私も、やってみたいです。仮装……」
喜多:「ほんと? 嬉しい! ひとりちゃん、何になる?」
顔をのぞき込まれ、ひとりは膝の上で両手を握った。
魔女や吸血鬼になる前に、自分には越えなくてはならない壁がある。
ぼっち:「ま、まだ……研究中で……」
リョウ:「新種か」
喜多:「じゃあ、当日のお楽しみだね! 一人ずつ、決めポーズでも撮ろうよ」
ひとりの中で、肩を組んでいた自分が静かに退去した。
一人ずつ。決めポーズ。
集合写真の端で笑うだけでは、入場資格が足りないらしい。
その夜、ひとりはノートの最初のページに、震える字で書いた。
『ハロウィン計画――陽キャになる』
下に、小さく期限を添えた。
『三日後まで』
2.陽キャ育成、短期集中講座
翌日、机の上には検索結果を書き写したノートと、色分けされた付箋が並んでいた。
『明るい挨拶』『相手に共感』『場を盛り上げる』『自然体』。
最後の一項だけは、二重線で消してある。
自然体でできるなら、今こうして蛍光ペンを三本も使ってはいない。
ぼっち:「う……うぇーい……」
鏡の中の少女が、何かを失った目で右手を上げる。
ぼっち:「……すみません」
違う。謝罪はセットではない。
ノートの『挨拶』の欄に、『終わってから謝らない』と追記した。
動画の中の人たちは、みな軽やかだった。呼吸するように笑い、間を空けずに返事をし、手持ち無沙汰になる前に次の動作へ移っている。
ひとりは再生速度を半分にした。
それでも、人と目を合わせるところだけ難易度が変わらなかった。
ぼっち(心の声):(ギターなら、遅くして練習すれば指が覚えるのに……会話の相手を半分の速さにはできない……)
検討の末、覚える言葉を三つに絞った。
共感には『それな!』。
褒めるときには『最高!』。
盛り上げるときには『ウェーイ!』。
さらに、会話が止まったときの緊急手段として『乾杯』を登録する。
これなら、どんな会話にも対応できそうだった。どんな会話が来るかは、まだわからないが。
ぼっち:「それな。最高。ウェーイ。……かんぱい」
呪文のように繰り返すうち、鏡の向こうの少女が少し気の毒になってきた。
外見の補助も必要だ。
引っ張り出した派手な上着。星形のサングラス。安く買った光るブレスレット。動画を参考に追加した花の首飾り。
一つ身につけるたび、不安が少しだけ隠れた。その代わり、季節がわからなくなっていく。
両腕が点滅し、胸元には南国が広がり、頭上にはハロウィン用の小さなかぼちゃが二つ揺れている。
ぼっち(心の声):(これだけ行事を集めれば、どれか一つには参加できるはず……)
スマートフォンが鳴った。
喜多から写真が届いていた。赤いリボンを巻いた魔女帽子と、小さな星を縫いつけた黒いマント。
喜多(メッセージ):『リボン、こっちの色にしてみた! ひとりちゃんの衣装も楽しみ!』
添えられた笑顔のスタンプまで、姿勢がいい。
ひとりは鏡と画面を交互に見た。
喜多は帽子とマントだけで、すでにパーティーの中心にいるように見える。こちらは祭りの落とし物売り場に見える。
ぼっち(心の声):(足りない……何かが、決定的に……)
机の端に残っていたブレスレットを、もう一本つけた。
まぶしくなった。
問題が解決したかどうかは、よく見えなくなった。
最後に、ノートを小さく書き直したカードを袖へ仕込む。緊張しても見られるよう、文字は大きめだ。
表には三つの言葉。
裏には、赤字で『困ったら乾杯』。
ひとりはカードを一度なで、ギターケースの横に置いた。
写真の中で、少しでも喜多の隣に近づけたら。
そのための三日間だ。
ぼっち:「うぇ……ウェーイ」
今度は、謝らずに言えた。
代わりに、鏡へ深くお辞儀をした。
3.本日のぼっちは陽キャです

パーティー当日。STARRYの扉の前で、ひとりは四度目の挨拶を飲み込んだ。
入る前から、光る腕が存在を主張している。隠れるには装備が不向きだった。
ぼっち:「う、うぇーい……です……」
扉を開けると、オレンジ色の小さな灯りが見えた。
壁には紙のこうもり。テーブルには、白いおばけのクッキーと、顔の描かれた紙コップ。天井からつられた星が、空調の風でゆっくり回っている。
その下で喜多が振り返った。赤いリボンの魔女帽子。肩で揺れる星つきのマント。準備中の写真より、ずっと楽しそうだった。
喜多:「ひとりちゃん! ……わあ、いっぱい光ってる!」
感想が照明設備に対するものだった。
虹夏:「ぼっちちゃん、それ重くない?」
黒猫の耳をつけた虹夏が、首飾りを気にして近づいてくる。カチューシャの片耳には、小さな黄色いリボンが結ばれていた。
ぼっち:「こ、このくらいは……社交の重みなので……」
虹夏:「そんなもの首にかけてきたの?」
リョウは黒いマントを羽織り、吸血鬼になっていた。尖った襟が妙に似合っている。ただし、口元に牙はない。
喜多:「リョウ先輩、さっきの牙はどうしたんですか?」
リョウ:「クッキーに負けた」
虹夏:「食べづらいから外しただけでしょ」
三人の衣装を順に眺め、ひとりは自分の胸元の花を一輪、握った。
秋だった。
みんなのところには、ちゃんと秋が来ていた。
虹夏:「それで、ぼっちちゃんは何の仮装?」
ぼっち:「よ、陽キャです……」
星形のサングラスの奥で、目を閉じる。
ぼっち:「人と……普通に会話できる人の……」
リョウ:「実在する生き物もありなんだ」
虹夏:「分類がおかしい!」
喜多:「ひとりちゃん、そのブレスレット、色も変わるの?」
ぼっち:「あっ、はい……ここのスイッチを押すと……」
喜多が手首をのぞき込んだ。距離が近い。ひとりは説明するつもりでボタンを連打し、両腕を高速で明滅させた。
虹夏:「なんか緊急事態になってない?」
リョウ:「着陸できそう」
喜多:「すごい! 後でちょっと暗くして、みんなで撮っても楽しそうだね」
楽しそうだね。
その声に、ひとりはぎこちなくうなずいた。
とりあえず、入場はできた。ここからは練習どおりに。
ひとりは袖口を引き、三つの言葉を確認した。
喜多:「上着、暑くなったら言ってね」
ぼっち:「さ、最高です!」
喜多:「そ、そう? よかった!」
最高なのは衣装なのか室温なのか、言った本人にもわからなかった。
それでも会話は終わった。
ひとりは心の中で、最初の成功に丸をつけた。
4.会話は三語、乾杯は無限

四人がテーブルを囲むと、喜多がジュースのボトルを持ち上げた。
喜多:「ひとりちゃん、オレンジとリンゴ、どっちがいい?」
ぼっち:「そ、それな!」
沈黙。
喜多は二本のラベルを見比べた。
喜多:「……どっちも?」
ぼっち(心の声):(選択式……! 共感では解けない問題……!)
ぼっち:「お、オレンジで……お願いします……」
喜多:「はーい!」
普段どおりに答えれば、一秒で解決した。
だが、今日のひとりには、その事実を検討する余裕がない。記念すべき最初の質問で、準備した三つの言葉が全滅したのだ。
虹夏:「じゃあ、準備もできたし。ハッピーハロウィン!」
紙コップが触れ合った。
ひとりも少し遅れて腕を伸ばす。サングラスで距離を見誤り、全員が下げかけたところへ追いついた。
喜多は気づいて、もう一度、自分のコップを軽く当ててくれた。
甘いオレンジジュースが、乾いていた喉を通る。
これで大丈夫だ。始まってしまえば、あとは流れに乗ればいい。
喜多:「ひとりちゃん、そのサングラス、どこで見つけたの?」
ぼっち:「さ、最高!」
喜多:「うん、形、可愛いよね。お店で買ったの?」
ぼっち:「そ、それな!」
虹夏:「さっきから、質問に届く直前で返事が曲がってるよ」
ぼっち(心の声):(場所を聞かれている……! 場所は三択の外……!)
慌てて袖を見る。表には答えがない。
カードをひっくり返した。
ぼっち:「か、乾杯しませんか!」
虹夏:「今?」
リョウ:「何に?」
ぼっち:「えっと……サングラスに……」
喜多:「じゃあ、ひとりちゃんの素敵な仮装に!」
コップが再び集まった。
ぼっち(心の声):(助かった……!)
ひとりはジュースと一緒に息を飲み込んだ。三日間の学習成果が、ようやく役に立った。
こうなれば、会話が止まるたびに乾杯すればいい。
お菓子の感想を聞かれたときは、クッキーに乾杯した。
衣装の準備は大変だったかと聞かれたときは、準備に乾杯した。
三人が次のクッキーを選ぶため黙ったときにも、何かの失敗を察知して乾杯した。
リョウ:「空になった」
虹夏:「ぼっちちゃん、乾杯の間に会話を挟もう!」
ぼっち:「か、会話が必要なんですか……?」
虹夏:「パーティーって、たぶんそっちが主なんだけど!」
空のコップをのぞくと、底でかぼちゃが笑っていた。会話能力を補うための燃料が切れている。
喜多が笑いながら、おかわりを注いでくれた。
喜多:「慌てなくて大丈夫だよ。まだお菓子もいっぱいあるから」
その言葉で、ひとりは大切な荷物を思い出した。
ぼっち:「あっ、私も……持ってきました……」
鞄から取り出したのは、小分けにしたお菓子の袋だった。口をオレンジのリボンで結び、こうもりのシールを貼ってある。
喜多:「可愛い! これ、ひとりちゃんが包んでくれたの?」
ぼっち:「そ、その……『トリック・オア・トリート』と言われたとき、速やかに対応できるように……」
リョウ:「備えがいい」
虹夏:「お菓子、避難用品みたいに用意してる」
ぼっち:「いたずらの範囲が……明記されていなかったので……」
知らない人に電話をかける、店員におすすめを聞く、集団の真ん中で自己紹介をする。
ひとりの想像した『いたずら』は、どれも衣装では防げなかった。ならば、お菓子で平和を買う方がいい。
リョウ:「トリック・オア・トリート」
ぼっち:「は、はいっ」
吸血鬼の手に、袋が一つ渡った。
リョウ:「トリック・オア・トリート」
虹夏:「一人一回!」
ぼっち:「あっ、だ、大丈夫です。追加要求も想定して……」
虹夏:「そこで備えのよさ発揮しなくていいから!」
喜多は受け取った袋を、壁のこうもりと並べていた。
喜多:「見て、虹夏先輩。おそろいみたいですね!」
虹夏:「ほんとだ。ちょうど色も合ってる」
喜多:「後でテーブルの写真にも入れよう。ひとりちゃん、ありがとう!」
ぼっち:「い、いえ……」
何の仮装でもない返事が、口からこぼれた。
自分の持ってきたものが、喜多の飾ったテーブルの真ん中へ置かれている。
少しだけ胸が軽くなり、ひとりはおばけのクッキーへ手を伸ばした。
ところが、サングラスのつるに首飾りの花が引っかかる。直そうとした袖からカードが滑り出し、慌てて手のひらで押さえた。
リョウ:「陽キャ、忙しいね」
ぼっち:「は、はい……休憩は、いつ……」
虹夏:「今していいよ。ずっとしてていいよ」
5.笑顔は、まだ練習していない

喜多:「じゃあ、そろそろ写真撮りませんか? みんなの仮装、ちゃんと残したいです!」
喜多が小さな三脚を取り出した。
ひとりは食べかけのクッキーを見つめた。おばけの顔は、口元までなくなっても楽しそうだった。少し分けてほしい、その余裕を。
虹夏:「先に四人で撮ろっか。リョウ、袋は置いて」
リョウ:「衣装の一部」
虹夏:「その吸血鬼、ずっとお菓子持ってるけど」
喜多:「それも可愛いと思います! リョウ先輩、マント、ちょっと広げてもらえますか?」
リョウが片手で裾を持ち上げると、黒い布がふわりと広がった。
喜多の目が輝いた。
喜多:「格好いい……! あっ、待ってください、今のもう一回!」
虹夏:「喜多ちゃん、四人で撮るんじゃなかった?」
喜多:「あっ、そうでした! すみません!」
喜多は慌ててスマートフォンを三脚に固定した。角度を確かめ、床に貼った小さな目印を指す。
喜多:「このへんに並ぶと、後ろの星も入るんです。ひとりちゃんは私の隣ね」
ぼっち:「と、隣……」
三日前、ノートを書き始めた理由が、目の前に用意されていた。
逃げたいわけではない。
ちゃんとそこに立ちたいから、足の置き場に困っている。
虹夏:「ぼっちちゃん、もう少しこっち。そんな端だと切れちゃう」
ぼっち:「あっ、はい……」
リョウ:「あと半歩」
ぼっち:「は、はい……」
喜多:「肩の力、抜いていいんだよ」
ひとりは肩を下げた。首飾りが前へ垂れ、花がサングラスへ迫る。
喜多:「せっかくだから、サングラスも少しずらして、お顔見せて!」
片手を上げる。
虹夏:「コップ、持ったままでいいの?」
もう片手を見た。先ほどから離す機会を失っていた紙コップがある。
ぼっち:「こ、これは……非常用で……」
虹夏:「何があっても乾杯できるように?」
ひとりはうなずいた。
虹夏は一瞬、天井を見上げ、それから笑って自分のコップも持ってきた。
虹夏:「じゃあ、みんなで持とっか。パーティーっぽいし」
リョウ:「私のは空」
虹夏:「写真には写らないから!」
喜多:「うん、いい感じ! あとは好きなポーズで。私、タイマー押してきますね!」
好きなポーズ。
ひとりの頭の中に、三日間で見た写真が一斉に並んだ。
ピース。サングラスに指。顔を傾ける。片脚を曲げる。コップを掲げる。
どれが正解なのだろう。選んでいる時間はない。喜多が画面を押した。数字が減り始める。
全部なら、どれかは当たる。
八。
ひとりはサングラスをずらし、その指をピースへ変えようとした。つるを離した途端、眼鏡が鼻先まで滑った。
七。
コップを掲げ、顔を傾ける。視界が花で埋まる。
六。
足のポーズが決まらない。片脚を引くと、なぜか上半身がお辞儀を始めた。
虹夏:「ぼっちちゃん、それ乾杯? 謝罪?」
ぼっち:「りょ、両方です……!」
リョウ:「欲張ったね」
五。
喜多が隣へ戻ってきた。片手にはコップ。もう片方の手で魔女帽子のつばをつまむ。
喜多:「私も、ちょっと格好よく……」
つばを下げた帽子が、すっぽり目元まで落ちた。
喜多:「あれっ。待って、何も見えない!」
四。
虹夏:「喜多ちゃん、そのまま! 直すから!」
虹夏が腕を伸ばす。喜多の帽子を押し上げた拍子に、自分の猫耳がずれた。片耳がぴょこんと前を向く。
三。
リョウは撮り直しと判断したらしく、手元のクッキーを口に入れた。
虹夏:「リョウ! まだ撮ってる!」
リョウ:「ん」
二。
喜多がようやく顔を上げた。目の前の虹夏の猫耳と、口を閉じたまま澄ましているリョウを見て、肩を震わせる。
喜多:「待って、みんな……ふふっ、ひとりちゃんまで、どうしてお辞儀してるの!」
ぼっち:「あっ……ふ、ふふ……」
自分の声に、自分が驚いた。
一。
喜多の帽子は曲がっている。虹夏は片手を伸ばしたまま笑っている。リョウの頬が、ほんの少しだけ膨らんでいる。
その全部がおかしくて、ひとりは顔を上げた。
シャッターが切れた。
6.同じ装備なのに

喜多:「見て、見てください! これ!」
四人がスマートフォンを囲んだ。
喜多の魔女帽子は斜めに傾き、虹夏の猫耳は左右で向きが違う。リョウの頬には、クッキーが入っている。
お手本の写真と似ている部分を探す方が難しかった。
ひとりは自分を、すぐに見つけられなかった。
いちばん端で、肩を縮めているはずだった。けれど画面の中では、喜多のすぐ隣にいた。サングラスは斜め。髪には花が一つ引っかかり、光る腕は中途半端に上がっている。
それなのに、笑っていた。
虹夏:「ぼっちちゃん、この顔いいね」
ぼっち:「こ、これ、私……ですか……」
リョウ:「光量からして、ぼっち」
ひとりは、画面の中の自分をもう一度見た。
鏡の前では、一度もできなかった顔だった。
喜多:「これ、後でみんなに送るね!」
ぼっち:「あ……お願いします」
袖の中で、カードの角が手首に触れた。少し折れたそれを、ひとりは鞄へしまう。
喜多が隣にしゃがみ、首飾りに引っかかった髪をそっと外してくれた。
喜多:「いっぱい準備してくれて、ありがとう。私、今日すっごく楽しい!」
ぼっち:「わ、私……喜多さんみたいにできたら、と思って……」
喜多:「私みたいに?」
ぼっち:「みんなと……普通に、楽しそうに……写れたらって……」
声が小さくなる。
喜多は手元の写真を見て、それから、ひとりの顔を見た。
喜多:「じゃあ、この写真、私とおそろいだね」
画面の中で、二人とも口を開けて笑っている。
ひとりはうなずき、サングラスを外した。さっきまで暗いと思っていた会場が、思いのほか明るかった。
喜多:「あ、そのサングラス、私もちょっとかけてみていい?」
ぼっち:「あっ、はい……どうぞ……」
受け取った喜多は、鏡も見ずにかけた。星形の縁が赤い髪に映える。マントの裾をつまみ、虹夏のスマートフォンへ軽く顔を傾けた。
喜多:「どうですか?」
一回だった。
腕の順番を間違えることも、足の行き場を失うこともなく、一回で完成した。
ぼっち:「……私の、三日間が……」
リョウ:「同じ装備なのに」
虹夏:「比較しない! ぼっちちゃんも可愛かったでしょ!」
可愛かった。
不意打ちの言葉に、ひとりの両腕がまた点滅した。スイッチを押した覚えはない。袖のどこかが当たったのだと信じたい。
喜多:「ひとりちゃんもおいで! 今度は二人で撮ろう!」
喜多はサングラスを髪の上にのせ、隣を空けた。
近い。
まぶしい。
もうカードは鞄の中だ。
ひとりは一歩だけ隣へ寄り、空になった紙コップを両手で持ち上げた。
ぼっち:「……か、乾杯しませんか……」
喜多:「うん!」
差し出されたコップに、自分のコップが触れる。
リョウ:「何に?」
ひとりが固まる前に、喜多が笑った。
喜多:「今日のハロウィンに!」
虹夏:「やっと普通の理由に戻ったね」
二つの空のコップが、こつん、と軽い音を立てた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。少し不器用で、にぎやかな結束バンドのハロウィンを楽しんでいただけたら嬉しいです。
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