【リコリコSS】千束誕生日2026|もしも、普通の女の子だったら【ファンアート】

あらすじ|千束の誕生日、もしも普通の女の子だったら

9月23日は、錦木千束の誕生日。

誕生日を翌日に控えた喫茶リコリコで、千束が思い浮かべたのは、井ノ上たきなと同じ学校へ通う日々でした。

放課後の寄り道、服選び、ゲームセンター、クレープの一口交換。もしも二人がリコリスにならず、普通の高校生として出会っていたら――。

にぎやかなお出かけと、小さな贈り物に込められた気持ちを描く、千束の誕生日を祝う物語です。

※本作は『リコリス・リコイル』の非公式二次創作SSです。普通の高校生として暮らすIF設定を含み、原作・公式の設定や物語とは異なります。

作品公式サイト:リコリス・リコイル


1.誕生日前夜の、もしも

閉店後のリコリコで、千束はソファの背もたれに顎を載せていた。

カウンターでは、たきなが拭き終えたカップを並べている。奥の厨房からは、ミカが何かを片づける音。ミズキとクルミは、さっきから姿が見えない。

千束「ねえ、たきな。今日さ、駅前に高校生の子たちがいたんだけど」

たきな「はい」

千束「ケーキの箱、誰が持つかでもめてんの。ひとりは自転車だから無理、ひとりは前に落としたから信用ないって」

たきな「前に落とした人は、やめたほうがいいですね」

千束「でしょ? なのに本人、名誉挽回したがっててさあ」

思い出すと、また笑えた。信号が変わるまでの短い時間に、箱の持ち主は三度も交代していた。

千束「ああいう誕生日も、楽しそうだよね」

たきな「ケーキが無事なら」

千束「そこから離れて? ほら、学校終わって、友達んち集まって。制服のまんまお祝いとか」

たきなの手が止まる。

千束「私たちも普通に学校通ってたら、どうなってたかなあ」

頭に浮かんだのは、並んだ机と、窓際の席。黒板を写すたきなの横顔だ。

千束「たきな、宿題見せてくれなさそー」

たきな「自分でやってください」

千束「まだ学校にも入ってないのに怒られた」

たきな「分からないところなら教えます」

千束「お。じゃあ最初の問題から」

たきな「まず読んでください」

千束は背もたれに頬を押しつけて笑った。先生に呼ばれたら、こんなふうに一緒に叱られるのだろうか。たきなはきっと、私は止めました、と真顔で言う。

それでも放課後には、迎えに来てくれそうな気がした。

たきな「少し、奥に行っています」

千束「なになに、内緒の相談?」

たきな「準備です。千束は休んでいてください」

千束「はーい。休むの得意でーす」

ソファへ横になると、たきなが薄いブランケットを渡してくれた。

厨房の扉が閉まる。時計の針の音が、急にはっきり聞こえた。

窓の外には、九月二十二日の夜がある。

千束はブランケットを胸元まで引き上げた。

同じ制服。帰り道の寄り道。鞄に入っているのは、教科書と、筆箱と――。

千束「……たきな、赤ペンとかいっぱい持ってそ」

小さく笑ったところで、まぶたが落ちた。

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2.放課後、迎えに来る人

たきな「千束。帰らないんですか」

顔を上げると、教室の入り口にたきなが立っていた。

白いシャツに、学校指定のリボン。肩にかけた鞄には、千束と同じ校章がついている。

千束の机には数学のプリントが広がっていた。窓の外では、運動部の掛け声がしている。

ここでは、二人ともリコリスではない。

千束は高校二年生で、たきなは一年生。毎朝校門をくぐって授業を受け、帰りにはミカの営む喫茶店へ寄る。春に転入してきたたきなへ校内を案内してから、それがいつもの帰り道になっていた。

千束「あ、迎えに来てくれた。ちょうどよかった、この問題がさ」

たきな「私はまだ習っていません」

千束「そっか。先輩の威厳が守られた」

たきな「先生に聞きに行きますか」

千束「今ちょっと傷ついたとこだから優しくして」

プリントを鞄にしまい、立ち上がる。たきなは当然のように、千束が机の横に掛け忘れた上着を取った。

廊下へ出ると、西日が二人の上履きを長く照らした。

千束「ねえ、二十三日って空いてる?」

たきな「空けてあります」

千束「……お?」

たきな「誕生日ですよね」

あまりに簡単に言われて、用意していた売り込み文句が全部いらなくなった。

千束「なーんだ。覚えてくれてたんだあ」

たきな「先週も聞きました」

千束「それでも、空けといてくれたんでしょ?」

たきなは上着を千束へ押しつけた。

たきな「どこに行きたいんですか」

千束「一日たきなと遊べれば、どこでも」

言ってから顔をのぞくと、たきなは階段へ視線を向けたまま、歩く速度を少し上げた。

たきな「行き先は決めてください」

千束「はいはい。あ、プレゼントとかある?」

たきな「当日に」

千束「あるんだ!」

たきな「……今のは忘れてください」

千束「無理ですねえ。千束さん、そういう記憶はいいので」

靴を履き替えてからも探ってみたけれど、たきなは頑として答えなかった。ただ、千束が文房具屋の前で足を止めたときだけ、少しそわそわした。

店先には、小さなアルバムが並んでいた。

千束「こういうの、まだあるんだね。写真入れるやつ」

たきな「ありますね。行きましょう」

千束「急に帰宅への意欲が高い」

たきな「お店、混みますから」

袖を引かれるまま、千束は歩きだした。

何をくれるのかも気になるけれど、内緒にしようと頑張っている顔を、もう少し見ていたかった。

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3.誕生日特権、使いすぎです

ベンチでクレープを楽しむ千束とたきな。千束が紙ナプキンを差し出し、口元にチョコをつけたたきなが微笑んでいる

九月二十三日、待ち合わせ場所に来たたきなは、淡い色のブラウスを着ていた。

髪の片側を小さなピンで留めている。

千束「かーわいい」

たきな「おはようございます」

千束「おはよう。かわいい」

たきな「二回言わなくても聞こえています」

千束「二回見てもかわいかったもんで」

たきなは鞄の持ち手を握り直した。

たきな「……誕生日、おめでとうございます」

千束「うん。ありがと」

通りの向こうから吹いた風が、ブラウスの袖をふわりと膨らませた。千束はそちらへ一歩近づき、並んで歩きだした。

最初の予定は、千束の秋服を見ることだった。

十五分後、試着室の前に服を三着抱えていたのも千束だった。

たきな「どうして私が着るんですか」

千束「似合うかどうかは着てみないと分かんないでしょ」

たきな「千束の服を見に来たんですよね」

千束「誕生日の人が見たいものを見る。筋は通ってる」

カーテンの向こうから、ため息が聞こえた。

やがて出てきたたきなは、柔らかい青のカーディガンを羽織っていた。

千束は服を持ったまま、両手を広げた。

千束「ほらあ!」

たきな「何が『ほら』なんですか」

千束「似合うって言ったじゃん。鏡見て、鏡」

たきなは落ち着かなさそうに袖を引いた。それから鏡の中で、ほんの少し首を傾けた。

千束「それ、たきなも気に入った顔」

たきな「……着やすくはあります」

結局、店を出たときに買い物袋を持っていたのは、たきなだけだった。

千束「いい買い物したねえ」

たきな「千束は何も買っていません」

千束「満足したからよし」

その満足顔は、次のゲームセンターで崩れることになった。

画面の中で、千束の車が派手に壁へぶつかった。

隣のたきなは、最後のカーブをきれいに曲がってゴールする。

千束「待って待って。今日、誰の誕生日でしたっけ?」

たきな「千束です」

千束「お祝いの気持ちとかは?」

たきな「あります」

千束「走りに出てないんだよなあ!」

たきな「もう一回やりますか」

千束は財布を開いた。

二回目も負けた。

三回目は勝った。思わず両手を上げると、隣でたきなが画面を見つめていた。

たきな「今のコースなら、もう少し速く走れます」

千束「お。悔しい?」

たきな「もう一回だけ」

その一回が終わる頃には、昼食の予定が三十分ほど後ろへずれていた。

クレープ屋のベンチで、千束は苺の載った生クリームをひと口かじる。

隣では、たきながチョコバナナを慎重に包み紙から出していた。

千束「そっちもおいしそ。一口交換しよ」

たきな「はい」

差し出されたクレープを、千束は遠慮なくかじった。

たきなが断面を見る。

千束を見る。

千束「……おいしいね?」

たきな「そうですね」

千束の手首が、そっと引き寄せられた。

戻ってきたとき、苺が一個なくなっていた。

千束「あっ、主役!」

たきな「バナナも、かなりなくなりました」

千束「交渉の余地なし?」

たきなは口元にチョコをつけたまま、少しだけ笑った。

千束も笑い、紙ナプキンを渡す。

そのあと服屋の袋を足元へ置き直していると、小さなシャッター音がした。

千束「ん? 今撮った?」

たきな「はい」

千束「言ってよ。ほら、こういうのはさ」

顔の横で指を立て、少し顎を引く。

たきなはスマートフォンを下ろした。

千束「撮らんのかい」

たきな「さっきのほうがよかったので」

千束「注文が細かいカメラマンだなあ」

画面を見せてもらうと、そこにはナプキンを差し出しながら笑っている自分がいた。

もう一枚前は、ゲームに勝って両手を上げているところ。その前は、試着室の前で服を抱えているところだった。

千束「私ばっかじゃん」

たきな「今日は、千束を撮ろうと思って」

千束「……ふうん」

もう一度画面を見る。自分がこんな顔をしていたなんて、知らなかった。

千束「でも、たきながいない」

スマートフォンを受け取り、前のカメラへ切り替える。たきなの肩へ腕を回すと、細い身体が少し固まった。

千束「はい、こっち」

たきな「近いです」

千束「離れたら入んないもーん」

画面の中で、たきながようやくこちらを見た。

その瞬間を撮ってから、千束は残りのクレープをかじった。

今度は、ちゃんと二人とも写っていた。

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4.まだ写真のないページ

リコリコの扉を開けると、ミカがカウンターの向こうで微笑んだ。

ミカ「おかえり。楽しかったか」

千束「たきながレースで本気出すんだよ、先生」

たきな「最後に勝ったのは千束です」

千束「それは私のたゆまぬ努力の成果です」

いつもの席に座ると、小さなケーキが運ばれてきた。

白いクリームの上に苺が並び、チョコレートのプレートには千束の名前が書いてある。

千束「おお。こっちは苺がちゃんとある」

たきな「まだ言いますか」

ミカは事情を聞かず、笑いながらろうそくに火をつけた。

炎を吹き消すと、たきなが鞄から包みを取り出した。

たきな「これ。誕生日のプレゼントです」

赤いリボンが、少しだけ斜めに結ばれている。

千束はほどく前に、指先でその結び目をつまんだ。

千束「開けていい?」

たきな「そのために渡しました」

中に入っていたのは、手のひらよりひと回り大きなアルバムだった。

最初のページには、校門の前で笑う千束。

転入初日、たきなの写真を撮ろうとして、せっかくだからと近くの生徒に撮影を頼んだ日のものだ。たきなは端のほうに、背筋を伸ばして立っている。

次のページでは、購買のパンを二つ持った千束が笑っていた。

千束「これ、焼きそばパン最後の二個だった日」

たきな「走るから、何かと思いました」

千束「重大事件ですからね」

文化祭の飾りを作っている写真もある。千束の袖に紙の輪が引っかかっていて、たきなが取ろうとしていた。

千束「これ誰が撮ったの?」

たきな「クラスの方に、分けてもらいました」

千束「……私に内緒で?」

たきな「はい」

千束「やるなあ」

昼休み。帰り道。窓際でプリントを前にうなだれている自分までいた。

大きな行事ばかりではなかった。写真を見て初めて、あの日も楽しかったのだと思い出す。

千束はページをめくる手を、少し緩めた。

千束「たきな、こういうの作ってくれるんだね」

たきな「写真だけ送るより、見やすいかと思って」

透明なポケットの縁を指で押さえながら、たきなが言った。

たきな「……選んでいたら、思ったより多くなりました」

最後の写真は、雨の日に店の軒先で空を見上げる千束だった。

その先は、白い台紙が続いている。

千束「あれ。ここから空いてる」

たきな「今日の分を入れます」

もう一枚めくる。その次も、まだ白い。

千束「今日だけじゃ、埋まんなくない?」

たきな「これからも撮りますから」

千束の指が止まった。

たきなはケーキの皿を少し移動させ、アルバムを置く場所を広げていた。

来年は三年生になる。進路の話も増えるだろう。その先には卒業がある。

毎日迎えに来てもらえるのは、いつまでなのか。

白いページを見ながら浮かんだことを、千束は言わなかった。たきなはもう、その続きを入れる場所まで用意していた。

千束「じゃあさ」

顔を上げると、たきなもこちらを向く。

千束「来年の誕生日も、一緒に遊ぼ」

たきな「はい」

千束「予約ね。一日分」

たきな「分かりました」

簡単すぎるくらいの返事だった。

千束は笑って、もう一度アルバムを見る。今なら、この白いところが早く埋まってほしいような、もったいないような気がした。

たきな「千束。写真、撮ります」

千束「えー、また私だけ?」

たきな「そのままで」

スマートフォンがこちらを向く。

千束がアルバムを持ち直すと、名前を呼ばれた。

たきな「千束」

もう一度。

たきな「千束、起きてください」

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5.言いそびれたこと

最初に見えたのは、たきなの顔だった。

ブラウスではなく、いつもの服を着ている。

背中の下にはソファがあり、胸元にはブランケットがあった。指先でつかんでいたのは、アルバムではなく、その端だった。

千束「あれ……」

たきな「日付、変わりましたよ」

時計を見る。午前零時を、少し過ぎていた。

厨房のほうからミズキの声がする。

ミズキ「主役、起きたー? ろうそく短くなっちゃうんだけど」

クルミ「だから起こしてから火をつけろって言ったのに」

ミズキ「あんたも止めなかったでしょ!」

千束は身体を起こした。

膝の上へ落ちたブランケットを、指でならす。

たきな「まだ眠いですか」

千束「……夢、見てた」

たきな「夢?」

千束「たきなと学校通ってんの。私が先輩で、たきなが迎えに来てくれてさ」

口にすると、教室の窓も、廊下の色も、まだすぐそこにある気がした。

千束「誕生日に遊びに行って、服見て。たきな、青いの似合ってたよ。あとレースで全然手加減してくんない」

たきな「夢の私に言ってください」

千束「クレープの苺も取るし」

たきな「私、何か怒っていたんですか」

千束「私が先にバナナいっぱい食べました」

たきな「では仕方ないですね」

千束は吹き出した。

やっぱり同じことを言う。

千束「あとね、アルバムくれた。学校の写真がいっぱい入ってるやつ」

たきなは、膝から滑りかけたブランケットを受け取った。

千束「後ろがまだ空いてて。これからの写真入れるからって」

たきな「……そうですか」

千束「うん。それで、来年も――」

そこまで言って、千束は止まった。

たきなが待っている。

同じ返事をしてくれる気はした。けれど、夢の中で約束したのだと話すのは、少しずるいような気もした。

千束「……あ、ケーキ。待ってんだった」

立ち上がり、スカートを軽く払う。

千束「お待たせしましたあ! 主役到着でーす」

テーブルには、ケーキがあった。

夢のものより少し大きく、チョコレートのプレートには同じ名前が載っている。ろうそくは一本だけ、傾いていた。

ミカ「誕生日おめでとう、千束」

ミズキ「おめでと。ほら、早く消して」

クルミ「もう一回寝るなよ」

千束「寝ませんよ。いやあ、皆さんおそろいで」

たきなが隣へ来た。

たきな「おめでとうございます、千束」

千束「……うん。ありがと」

息を吹きかける。

消えた炎から、細い煙が上がった。

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6.来年も、その次も

夜の喫茶リコリコで、赤と青の和装制服を着た千束とたきなが、肩を寄せてスマートフォンで自撮りするイラスト

ケーキを切り分ける間に、ミズキが飲み物を並べた。

千束が自分の皿を受け取ると、苺が二つ載っていた。

千束「私、多くない?」

ミカ「主役だからな」

千束「さっすが先生、分かってる」

隣からフォークが伸びてくることはなかった。たきなは自分の皿のクリームを、静かにすくっている。

千束「……一口いる?」

たきな「自分の分があります」

千束「そっか」

苺は甘かった。

食べ終わる前に、千束はスマートフォンを取り出した。

千束「写真撮ろ。みんなで」

クルミ「今から? もうケーキ欠けてるぞ」

千束「そこも含めてお祝い中ってことで」

ミズキが髪を直し、ミカがテーブルの端へ立つ。クルミは椅子を寄せて、ちゃんと写る位置を確保した。

タイマーの数字が減っていく。

千束はたきなの腕を引いた。

たきな「見えています」

千束「もっとこっち」

シャッターが切れた。

確認すると、ミズキが笑いすぎて目を閉じ、クルミはケーキの皿をこちらへ向けていた。ミカはいつもどおり穏やかな顔で、たきなは千束に引かれたぶんだけ肩が傾いている。

千束はその写真を皆に送った。

ミズキが早速撮り直しを要求し、二枚目も撮った。そちらではクルミがよそを向いていたので、結局どちらも残すことになった。

皿を下げ始めたたきなの袖を、千束はもう一度つまむ。

千束「たきな。二人でも」

たきな「さっき撮りましたよ」

千束「二人のは、まだ」

たきなは皿を置いた。

隣に座り直すのを待って、千束はスマートフォンを高く構える。画面へ入ろうと肩を寄せたところで、たきなも顔を近づけた。

思ったより近くなって、千束は笑ってしまった。

その拍子に指が触れ、シャッターが切れる。

たきな「ぶれましたね」

千束「んー。でも、いいんじゃない?」

画面の中の自分は、少し輪郭がぼやけている。たきなはそんな千束を横目で見て、口元を緩めていた。

撮ろうとすると、なかなか撮れない顔だった。

千束は拡大して、それから元に戻した。

たきな「来年は、食べる前に撮りましょう」

千束「……来年?」

たきな「ケーキも、きれいなうちに」

たきなの指が、画面の端に写った皿を示す。

それから、ごく普通の声で続けた。

たきな「来年の誕生日も、一緒に過ごしましょう。千束」

千束は顔を上げた。

スマートフォンを持った手が、少し下がる。

たきな「……千束?」

目の前のたきなは、不思議そうだった。

制服も着ていないし、アルバムも持っていない。

千束が言わずに飲み込んだことを、知っているはずもなかった。

千束「……うん」

最初の返事は、小さくなった。

たきなが首を傾げる。その顔を見ているうちに、千束の口元が勝手に緩んだ。

千束「じゃ、予約ね」

たきな「はい」

千束「一日分だよ? ケーキ食べて解散とかなしだからね」

たきな「分かっています」

千束「その次も、空けといてよ」

たきな「千束こそ、忘れないでください」

千束「忘れませーん。そういう記憶はいいので」

いつもの声に戻ったつもりだったけれど、最後だけ少し笑いすぎた。

たきなは何も言わず、もう一度画面へ目を落とした。

肩は、触れたままだった。

少し離れたカウンターで、ミズキが皿を重ねている。クルミが何か言い返し、ミカが二人をなだめていた。

千束は、膝の上のスマートフォンを見る。

写真の中では、二人の肩もくっついていた。

その下にある小さなハートを、千束は指先で一度、押した。

喫茶リコリコで苺の誕生日ケーキを囲み、千束をたきな、クルミ、ミズキ、ミカが笑顔で祝う横長イラスト

千束、お誕生日おめでとう。これからも、隣にいる大切な人たちと、笑顔の写真が増えていきますように。

千束とたきなの物語を、もう一編

二人の関係を描いたSSをもう少し楽しみたい方には、たきなの孤独と、千束が示す居場所を描いたこちらの物語もおすすめです。

【リコリス・リコイル SS】たきなの孤独の正体――千束が示した「不完全でもいられる居場所」

ファンアートもお楽しみください

BlueRabbit_Artでは、千束やたきなをはじめ、キャラクターたちのさまざまな表情を描いています。よろしければ、ギャラリーページもご覧ください。

※本記事はファンによる非公式の二次創作です。原作および公式関係者とは関係ありません。

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